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2009年 11月 21日

「ガラスの街」

「ガラスの街」_b0145178_1863212.jpg
ポール・オースターの小説第一作、柴田元幸による待望の新訳。

主人公は推理小説作家。妻と子供とは死別し、会うべき友も無く今は一人静かに暮らしている。そしてかかってくる真夜中の電話。それをきっかけに彼は不思議な事件へと巻き込まれていく・・・。

ミステリであり探偵小説でもあるが、なんともその枠内では表現しにくい作品。
訳者あとがきで柴田氏が『探偵小説が伝統的に満たしてきた条件が、この小説でも満たされるものと期待して読むなら、たしかにこれほど奇怪な「探偵小説」はない。事実はいっこうに明らかにならないし、「探偵」は何ひとつ解決しない。「探偵」の行動に表面的な意味での一貫性はなく、むしろどんどん理不尽になっていく。』と語っている。

けれども物語への期待は決して最後まで裏切られることはない。
始めの部分で独白として表現された彼自身の欲望が、読み終わったと同時に 望みが叶っている!と知った驚きはなんと言い表すべきか。
人の心の脆さ、きらびやかな都会の中の孤独、普通に生活する人々が均衡を失う危うさが、オースターが表現する主人公から、主人公が歩くうち描写するニューヨークの人々から見て取れて怖かった。

by bookswandervogel | 2009-11-21 09:05


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