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BOOKS WANDERVOGEL

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2009年 12月 20日

「ヘヴン」

「ヘヴン」_b0145178_1629538.jpg
苛めを真正面から取り上げ、「善とは、悪とは?」という重いテーマに果敢に挑んだ意欲作。

「苛められ暴力を受け、なぜ僕はそれに従うことしかできないのか」
ある日14歳の「僕」は同じく苛めを受ける同じクラスの女子・コジマから手紙を受け取る。
「わたしたちは仲間です」

思想を持ち、怖れることなく静かに耐え続けるコジマはまるで聖職者のようだ。コジマの存在が僕の今までの日々を肯定し、生きる意味に輝きを与えていた。意味のある弱さの「しるし」を僕の中に持っている限りは。

離れてしまえば、学生生活の日々など 皆が通過する一時の小さな世界の出来事のように思える。
けれどその小さな世界は、実はこの社会という 大きな世界の縮図なのだ。
苛める側の百瀬と僕との対話は、百瀬が圧倒的な強さと現実的な説得力を持っており、現代社会における構造を示唆しているかのよう。
「善」である側のコジマと「悪」である側の百瀬の声がふたつ重なり合うシーンは「善と悪を分かつものは何か」という問いを、読む側に鮮烈にたたきつける。

一度でも弱い側に立ったことのある人にとって、とても痛くて苦しい作品だと思う。
けれどコジマの「弱いかもしれないけれど、わたしたちはちゃんと知っているもの。」という言葉に、その辛かった日々がすうっと肯定されるかも知れない。僕が見た新しい世界に 同じ輝きを見出せるかも知れない。

過去の川上作品はどれを読んでも全くなじめなかったが、再チャレンジした甲斐がありました。

by bookswandervogel | 2009-12-20 11:27


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