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2011年 03月 30日

「ブーベ氏の埋葬」

「ブーベ氏の埋葬」_b0145178_057256.jpg

物語の始まりが特にいいと、早くこの続きを!とワクワク感が自分の読書ペースを急き立てる。

平和が戻った第二次世界大戦直後のパリ。8月の光溢れる朝、セーヌ河岸の古本屋でいつものように版画を眺めていたブーベ氏が何の前触れもなくゆっくりと倒れ、息絶える。
長年独り暮らしをし、年金で慎ましく暮らしていたブーベ氏。
住み慣れたアパルトマンの優しい住人たちの手で葬儀を執り行い、埋葬される予定だった。

ところが、その朝の古本屋での写真を偶然カメラに納めた者が居た。
新聞にその写真が載るや、身寄りが無いと思われていたブーベ氏に妻、娘、妹、会社の共同経営者・・・と次々に名乗る者が現れる。
そして遺体が安置されていた部屋が荒らされ、ベッドの下からは大量の金貨が発見される。
いったい彼は何者だったのか?

穏やかな佇まいの老人は、はじめから老人ではなかった。(当たり前だけど)
やがて名乗り出た人々の証言から、若く心も体も逞しく未来に溢れていたブーベ氏の過去が明らかになってくる。

様々な顔を見せ、どれが本当だろうかと惑わされるが、皆それぞれが自分と居た時の彼が一番幸せで、本当の彼の姿だ、と疑わない。
死んだ一人の老人の過去に、たくさんの人が関わりドタバタを繰り広げるが、口元に笑みさえ浮かべて亡くなったブーベ氏はさて、どの人にも媚を売らず、固執せず、我関せず そして真相は明かさず、ただ一人幸せそうなのである。

by bookswandervogel | 2011-03-30 01:15


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