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2011年 05月 22日

「移動動物園」

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暑いのががとても苦手である。今年の夏は日本中さらなる節電の予定なので,覚悟しなければならないと思うと、夏ごとワープしたい気分だ。

佐藤泰志の『そこのみにて光輝く』と同じく夏が描かれた『移動動物園』。
『そこのみにて』の8年前、28歳の時の作品であるからか、若さや勢いが多いぶんだけより熱い。読んでいて、暑苦しさと若さゆえの生き苦しさにむせかえるような作品だった。

『暑かった。足元からたちのぼってくる草や土の匂い、それに汗の匂い、夏の空気と一緒に達夫をぴったりと包みこんでいて、息をいっぱいに吸い込むと、むせびそうになるほどだ。』

やはり冒頭からゆらゆらと陽炎がたちのぼる夏の風景が目の前に現れる。
主人公の達夫は二十歳。山羊や兎、モルモットなどの動物たちをバスにを乗せ、幼稚園を巡回する「移動動物園」で三十五歳の園長、二十三歳の道子と共に働く。
マイクロバスと動物たちの小屋が置ける「恋ケ窪」の空地で、照りつける太陽の下、もがきながら生きる達夫の姿を淡々と丹念に描いている。
1ページ目の山羊のポウリィの啼き声と、最後に達夫がポウリィに話しかける台詞は繋がり、ループしていて、物語が一瞬のようで永遠に続きそうな夏の趣きを感じさせる。

他に収録されているのは『空の青み』1982年の作品。2回目の芥川賞候補になった作品。
主人公の「綱男」は佐藤の長男の名と同じ。
『水晶の腕』は1983年、3回目の芥川賞候補作。(著者は通算5回、芥川賞候補になっている)
自身が1979年に梱包会社に入った際の労働がリアリティを持って描かれている。
身体的精神的にも微かな疲労を覚えながら、汗をかくほど体を動かして働き、けれど心の中では自身と葛藤している描写の部分とても好きだ。特にステンプルで釘の早打ちをする場面。
私自身似たような仕事を経験していて、一人淡々と体を動かし、汗を流し、傍から見たら一心に仕事をこなしてるようであっても、心の中では全然違うことを黙々と考えていたあの頃を懐かしく思い出させた。
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by bookswandervogel | 2011-05-22 18:46


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