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2011年 05月 28日

「オリーブ・キタリッジの生活」

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ぜんぜん期待せず読んでみたけれど、たいへん味わい深かった。
というか自分が、こんな感じだろうなー と思っていたものとかなり違っていて、心地よく裏切られた。

クロズビーというある町。オリーブ・キタリッジという一人の人物を中心に話が展開する、というより、町で繰り広げられる様々な出来事から、一人のありふれた人物像を浮かび上がらせている。
数学教師のオリーブはいわゆる「いいひと」では無く、愛想がなく親切でもなく、どちらかというと偏屈な中高年のただのおばさんだ。
彼女は『ウォーリーを探せ!』のウォーリーのように町を横切っては、ある人の話に適当に首を突っ込んでは居なくなったり、ある人の人生ではターニング・ポイントを左右する重要な役割を果たす。

ありふれた田舎町の、地味な人々が穏やかに何の変化なく暮らしているように見えていても、若かった者は老いて、夫婦は別れ、子供は町から離れていく。出てくる人物はほとんどが中高年で、だれもが家族にまつわる何がしかの痛みを抱えている。

オリーブも、息子の結婚式に着たドレスの色が正しかったのかどうかと気に病み、やっと結婚した一人息子は嫁に言いくるめられて町を出て行き、優しかった夫・ヘンリーの本心を思いがけなく知ってしまってどぎまぎし、近所の摂食障害の娘を見ては胸を痛める。
気性が激しく頑固で、人を人と思わないようなオリーブの、もともとあったのだけれど、隠れていた一面や個人的な痛みの部分が、徐々に浮き彫りにされていく。

それぞれの書き出しは常になにげなく、こんなにも短い話がここまで味わい深くなるなんて!と読むたび驚かされてしまった。小説というものの奥深さをまたしても知りました。
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by bookswandervogel | 2011-05-28 00:36


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