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2011年 06月 05日

「東京難民」

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福澤さんはホラーや怪奇小説で名手として知られている方ですが、私はずっと「そうじゃないほう」の小説だけ読んでいます。怖いからです。

でも今回は「そうじゃないほう」でもじゅうぶん怖い。リアルに怖い。

三流私立大学の3年生の修。ある日突然、学費の未払いを理由に大学を除籍されてしまう。仕送りも、両親との連絡も途絶え「なにがどうなってるの?」と帰ってみたら、実家は夜逃げしていて蛻の殻。
やむなく自活を始める修だが、借りていたマンションは追い出され、バイトは上手く行かず、借金は膨れ上がって...。

確かにガッツも無く芯も無くだらしのない修の性格が、あらゆるトラブルをさらに悪い方へと導いている節はある。けれど今の日本では、親にしっかり守られてのほほんと育ったこんな若者がほとんどだろう。ここに出てくる修が特別ではない。
しかし順調に学校を卒業し、就職してお給料がちゃんと出て、自分で生活できるようになり..とひと昔前は当たりまえに進んだ平凡な『自立』への道も、現実世界では足場が揺らいでいる。
何の心配も無く、親に守られ、のほほんと生きて来た若者が、もしも一歩足を踏みはずしたその先には、巧みに掘られた転落への穴がそこかしこに無数にあいているのだ。

修が金策に奔走して次々と関わるアルバイト(ティッシュ配り・ポスティング・電話のオペレーターに始まり、治験のバイトやゲイバーのウェイター、ホスト、日雇い等々)の裏側を垣間みながら、家も定職もお金もない状況になった時にまず雨風をしのぐためにはどうするのか?という、普段想像もしない最悪ピンチな状況を、修を通して自分も疲労を覚えつつ、何とか乗り越えようと必死に考える。

いったいどこまで??と救われない修の堕ち加減は容赦ない。
絶体絶命!のピンチの場面は、やはりこの著者はホラー作家なのだ..と思い出さずにはおれないほど身の毛がよだつ恐ろしさ。

アングラを描きつつ、それを自慢にせず嫌みもなく、ダークかつシビアな世界に主人公は生きているのに暗さがない。そしてヘタな自己啓発書よりどしっと心に響くものが読んだ後に残る。
これまでにない550ページ越えの長編だけれど、この作家の圧倒的リーダビリティはいつものこと。ついついのめり込んで読んでしまう。今回も一気読みでした。
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by bookswandervogel | 2011-06-05 22:03


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