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2011年 06月 18日

「翼」

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光文社が企画した、作家6人によるテーマ競作『死様』。
その中で光っているのはやはり白石氏。
なにがすごいって、テーマが死様だろうがなんだろうが、これはこの人にしか書けない!という仕事をきっちりやり遂げている。
本自体は中編といえるくらいの長さだけれど、これぞ白石一文の小説!というストーリーがぎゅうっと詰まっていて、読み終えて拍手してしまったほど。

光半導体営業部課長代理を勤める里江子という女性が主人公。(白石氏の小説の主人公は必ず才色兼備だ。でもぜんぜん嫌じゃない。)彼女は十年前に親友の恋人である岳志から、ほとんど初対面にもかかわらず結婚を申し込まれた。唐突で無謀な話に応えることなく、里江子自身の転勤や、親友と岳志の結婚などで疎遠になっていたが,ある時東京に戻って来た里江子は偶然に岳志と再会する。驚くことに、結婚し子供までもうけた岳志の気持ちは全く変わっておらず、里江子と離れた十年の間にさらに確信を深めたと言う。

岳志のエキセントリックな発言や行動に、里江子と同様にかなり戸惑うが、二人の周辺で明らかになる「人と人との、どうしようもない不思議な繋がり」を見ていくうち、感情のままに動く岳志を「どうかしてる」とは思わず、理解しだんだん許容している自分に気付く。

「私には、直感だの必然などという曖昧な表現で自らの行動を肯定できる岳志や朝子のような人間が理解できない。そもそも感情と直感は同じものなのか。もし違うのだとしたら、どこがどう違うのか。しかし、そうは言いながらも、心のどこかでそういった彼らの心性を認め、受け入れている自分がいるのも確かだった。」
孤独に慣れているはずの里江子と同じ目線、冷静かつ常識的に考えてきたつもりではあったけれど、すべて肯定はしないまでも、何か理論的ではない豊かなものに触れたような気持ちになった。

白石一文の小説、すべての物語が男女の愛を謳い上げている。
私たちはそうした物語に生涯心を奪われつづける。
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by bookswandervogel | 2011-06-18 17:22


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