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2011年 07月 06日

「なずな」

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40代・独身の菱山は子供を持つような機会からはいちばん縁遠いような人物。結婚という未来も特に無さそうだ。
そんな菱山はやむをえない事情から、弟の子供・なずなを預かることになる。

まだ生まれて間もないなずなは、ちょうど首がすわるか すわらないかの危うい時期。
彼は突然託された赤ん坊のオムツをいそいそと替え、温度と粉の量をきっちり計って授乳し、そうっとお風呂に入れて、ベビーカーで街にくり出す。
そこによくある「育児小説」の甘やかさは無く、だんだんと父性に目覚める・・・という成長もない。

あるのは、ある日突然赤ん坊が自分の生活の中心に現れる「未知との遭遇」と、それに伴う自分と周りとの関係の変化だ。
自分の周りの人達が、赤ん坊を育てる彼を励まし、一緒に育てようと手を差し伸べてくれる。自分の両親、さらには弟の妻の両親とまで自分から連絡を密に取るようにする。伊都川市という土地の日報を書く記者の彼は、在宅で仕事をこなすが、いざ散歩になずなを連れて出ると、誰彼となく声をかけられる。

40代で独身で一人暮らしで決まったパートナーも居ない男の生活であれば、こんなに人と関わることはきっと無いだろう。
自分が世界の中心だったのが、中心は彼女に取って代わっているのだ。「俺が」「私が」という話にはならない。飲んで寝てげっぷして便を出して泣くだけの、なずなという命のかたまりみたいな存在を自分が守っているようでいて、実は彼女に守られていることに彼はゆっくり気付いてゆく。

彼の住む伊都川の街も、彼の周りの人々も400ページの中でゆっくりと変化する様が描かれる。
彼の置かれている環境、なずなの両親のこと、周りの人の輪郭がだんだんに解き明かされるので、長さは全く苦にならずに読めた。
子供が居る人にも、全く関わりの無い人にも、どちらにもおすすめ。
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by bookswandervogel | 2011-07-06 23:56


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