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2013年 08月 06日

「コリーニ事件」

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デビュー作『犯罪』そして2作目の『罪悪』ともに、私の中では最近の翻訳小説の大ヒット!であるフェルディナンド・フォン・シーラッハ。
多くは語らない無駄のない文章、けれど人間の愚かさ、哀しさと可笑しさを深く深く寄り添って描く文章は今回も変わらない。

物語はとてもストレートで前2作以上にシンプル。
本書は衝撃的な殺人の現場から始まる。新米弁護士ライネンがが受けもつことになったこの事件の被害者は、彼が個人的に家族ほど親しかった人物だった。それを知らずに国選弁護人として殺した犯人を弁護する立場に立たされたライネン。殺人事件としては犯人がすでに明らかなこの事件の裏側には、隠されていた驚くべき真相があった。

犯人のコリーニは、殺人を自供したものの肝心の動機は黙して語らない。
被害者との接点も皆目わからない。
はじめにコリーニの人柄がじわじわ語られ、その誠実な性格がわかってくると「では、なぜ?」という問いがに頭の中をぐるぐるするけれど、後半になって被害者との接点の謎が解かれたあと、今度は史実に基づいたもうひとつの謎が表れて驚く。

フィクションとノンフィクションを交差する、魅力な手法だ。
しかも訳者が記した「あとがき」を読むと、さらにずしりと重みを感じずにはいられない。

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先日読んだ『アンネ・フランクについて語るときに僕たちの語ること』の中の『姉妹の丘』でも同じテーマだったように思う。
「戦争時の決め事は果たして有効なのか?」ということ。あの混乱したあの状況下の判断は正しいものだったのか?
国も人種も宗教も関係なく、人としてどう生きるべきか?が目の前に突きつけられる。
権力によって正当化される物事の下敷きには、癒されることのない痛みを抱えるひとが必ず居るのだ。
どちらの物語も、感情を極力抑えた語り口。それがなぜだか反対に作用して気持ちをぐらぐらと揺さぶられる。思い出しては尾を引く場面が多かった。

しかし今までに実社会を変えてしまう小説というものが、果たしてあっただろうか?
この小説がきっかけとなって、ある法律の再検討が始まったという事実。
恥ずべき過去に真っ向から筆で立ち向かった著者や、その後の動きに敬意を表すると共に、
その物語を読んだことで、大きな歴史の変革の一場面に居合わせたかのような気持ちになった。
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by bookswandervogel | 2013-08-06 00:02


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