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2008年 11月 30日

「あの空の下で」

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ANAの機内誌「翼の大国」に載っていたのをまとめたものだそうで。
エッセイ、小説ともにリズムのいい?というか小気味いいというか、あぁこんなの旅の行きの飛行機で読んだらたまらないなぁー これからの旅にとてもいい序章になるなぁと思った。

エッセイと小説に垣根が無く、どちらもさらっと描かれているようでひとつひとつドラマチック。
何よりエッセイの吉田さんの視線の高さに好感が持てた。
視線が やさしい。

台北でのエッセイから。
『相手に優しくされれば、気分がいいし、気分が良ければ、誰かに優しくしたくなるのが人情だ。 誰か優しくない人に会ったら、「きっとこの人は誰かに優しくされていないんだな」と思え、そう思えば、腹立ちも紛れると教えてくれたのは誰だったか。』

旅先で見知らぬ誰かに優しくされた覚えは誰にもあるはず。
その何気ない行為が 旅人にとっての旅の醍醐味なのかも知れない。
一期一会のすてきな瞬間。
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by bookswandervogel | 2008-11-30 01:43
2008年 11月 27日

「真贋」

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世の中の様々な出来事を交えながら、吉本さん独特の視点で語る。

本を読むこと について。
「一般的な価値観でいうと、本を読んだ方が本をあまり読まないよりも教養が身につき、思考が深くなって、人生が豊かになると考えられている。本を読むことで、心が何かしら豊かになるということを妄想的に信じている人がいたら、少し危険だと思います。「豊かになる」ということほど、あてにならない言葉はないからです。」

本を読んで 何かを知る利点はある。けれどそうした利を得ると同時に、毒もまた得ているのだ、と著者は語る。

本を読むことだけに限らず、あらゆるものに利と毒はある。
「毒がまわる」「自分の毒に責任を持つ」「教える毒」。
毒 なんて普段使わない言葉が自分の周りにはじめてぼんやり形を現し、それをうっすら目にしたような感覚。 後ろで吉本さんが「よく見ろ よく見ろ」と言っている。
いろいろなことを利と毒両面から見る、あるいは利と毒があるという価値観を脇において物事自体を見ようとする 。そういう見方が必要な時代。
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by bookswandervogel | 2008-11-27 00:56
2008年 11月 21日

「夜を着る」

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旅にまつわる8編の短編集。
旅に出て 遠くの景色に目をやり、いつもとは確実に違う場所に立っているのに  頭の中はまだモヤモヤと日常をひきずって・・ なにひとつ問題も解決しないまま ひきずって・・。

読み終わった後にすっきり感はない。なにか自分の過去の旅をなぞってぼんやりする様な感じを覚えた。

短編をひとつ電車の中で読み終えるたびに「ええと、私はどこに帰るんだっけ?」  思い出すのに1、2秒。
            うすらこわいお話 多め。
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by bookswandervogel | 2008-11-21 00:52
2008年 11月 19日

「時が滲む朝」

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やっと読みました。
芥川賞を受賞しただけに、いろいろ賛否両論ありましたが
そもそも芥川賞はいつもそんな感じですね。
今回は中国の方が初めてとったので、話題になりましたが 日本人がとったとしても評価は同じ様なものだし。要は賞をとったその後の作家活動が大事なわけで。

現代中国に生きる学生の青春時の熱さとその後の挫折を描いた作品。
確かに日本人では書けない物語だし、中国人の心情がリアルに伝わる作品かも知れないが、「国」を考えなくなった日本人には この小説の熱さは伝わりにくいような気がする。  例えば北京五輪の開会式を テレビで見てた時感じたような、ずれ。
            この作品は中国で翻訳されるんだろうか?

でも著者のこれから、に期待しています。
携帯小説が売れたりベストセラーに名を連ねる作家だけがもてはやされたりする中で、恥ずかしいくらいの熱さを持った小説を書いて行って欲しい。
生まれて育った環境 日本に来て思う様々な事 彼女にしか書けないものはたくさんあるはず。
主張のある彼女の顔。もっと強く熱いまなざしでもって 日本の文学界に一石を投じて欲しい。
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by bookswandervogel | 2008-11-19 01:00
2008年 11月 13日

「枝付き干し葡萄とワイングラス」

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「でも今、僕はなにがなんだかわからない。なんでもいいような気がしちゃってる。 ふわふわ浮いてて、別に関係ないやって感じになっちゃってる。」

修羅場をむかえている主人公。場面は確かにこの上ない修羅場であり、自分のした事を素直に詫び、相手になるべく誠実な態度をとろうとしている・・けれど 頭の中はこんなふう。

日常のなんでもない場面を切り取った短編集。きれいに「オチ」のついたものより、読み終わったあとに「? それで?」と訳のわからなさを感じた作品の方が ゆっくりと後味が濃くなっていくのは何故だろう。
あとがきに「あたりまえの日常を営んでいるそのすぐそばに、奇異なものが存在することがあります。そういうものが、私はやけに気になります。」とある。
気になります、わたしも。想像とか妄想とか夢見がちとか 自分だけじゃないかも、とこの短編を読んで
あとがきを読んで、ほっとした。
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by bookswandervogel | 2008-11-13 00:31
2008年 11月 11日

「小高へ  父島尾敏雄への旅」

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「死の棘」を書いた島尾敏雄の息子、島尾伸三。
「死の棘」はほとんどノンフィクションの小説だが、読者は夫婦のその後を知らない。
息子として身内から見た父と母のその後を、もう60歳を過ぎた著者がまるで子供のように描いている。

自分の小さい頃の事を思い出してみても、思い出は脈略なく断片的で とても重要な場面は何故か抜け落ち、どうでもいいような出来事や風景がふいに思い出されたりする。


家族の辛い記憶を辿る文章は モノクロだけれどパッパッとフラッシュして廻されるスライドのようだ。けれど、絶望していた日々をとつとつと はき出せるようになったのは、自身の世界を作り、安心できる新しい家族を築き、長い歳月を経てきたからだろうか。

家族のことで傷ついたことのない人はいない。家族は選ぶことができない。
どんなに仲良しな家族でも、どんなに最低な家族でも、家族ってものは どうしようもない。
どうしようもなく 自分を成している もの。
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by bookswandervogel | 2008-11-11 23:19
2008年 11月 03日

「あなたは顔で差別をしますか」

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表紙の写真ではっとしてしまう人がほとんどでしょう。
「海面状血管腫」という病気を持つ 藤井輝明さんの新刊です。
藤井さんは何冊もご自分の病気についての本を出されていますが、
どの本も解り易く、またどんな人にも どんな立場であっても受け入れやすい書かれ方をしています。

簡単なことのようですが、それってとても難しいことのようにも思います。手に取って読もう、とする側の緊張をほぐすかのような文章はとても優しく、「容貌障害」という困難な状況に置かれた悩み 辛さを読み手にとって身近に伝え、また医療者としてそういった人とのコミュニケーションの仕方、理解の仕方を明るく 前向きに教えてくれる。

ハンディキャップを持つ人が自分の周りに居なくても、正しい知識をもって理解する その人の持つ痛みを想像する、というのはやさしいことへの小さな一歩。
病気の人、障害のある人、外国人や年長者。ボーダーラインはやはり、人の心の中にある。
心に乗り越えなければならない何かがある人は、まずは一歩踏み出して外に出てみよう、と満面の笑みをたたえて、この強い人は語りかける。
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by bookswandervogel | 2008-11-03 00:32
2008年 11月 01日

「偏路」

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女優になる!と東京へ上京した娘が、9年後願い叶わず、夢破れて都落ちすべく、帰って来た親戚の家で繰り広げられる 娘×父×親戚のドタバタ劇。

ドタバタしつつも 田舎特有の退屈さ、実家特有の居心地のいい生ぬるさ 血縁だけで結ばれてる親戚との微妙な距離感、誰でも経験したことのあるそれらがリアルに描かれている。


田舎だから・・というのではなくて 「実家」というものにそういった「グロテスクさ」が隠されてるんじゃないかなぁ?とも思った。
木寺紀雄の『jicca』という写真集を見た時も、居心地のいい居心地の悪さを感じた。 久しぶりにゆっくりしに帰った実家からの帰り道、なぜかやんわりと心が傷つけられてる自分に気付いたりしたこと、ありませんか?

本谷有希子が描く世界は 大げさなようで、派手に描き過ぎなようで、他人事のようで、
実はすごく普通にある日常の「隙間」。みんなが普段意識していないようにしている
「見ないこと」にしている世界だったりするのです。
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by bookswandervogel | 2008-11-01 00:57