BOOKS WANDERVOGEL

bookwangel.exblog.jp
ブログトップ

<   2008年 12月 ( 9 )   > この月の画像一覧


2008年 12月 29日

「1×1=2  二人の仕事」

b0145178_23571964.jpg
グラフィックデザイナーで装丁家の山口信博さんの仕事が好きだ。
著書はそんなに多くないけれど、好きだからといって次々買うのではなく、何かいい機会に出会った時 宝物を見つけたように大事に買い揃えている。 
今日はそんな出会いがあったので、ずっと欲しかったこの本を買った。

澄敬一さんと松澤紀美子さんはそれぞれ古いものを売る店をやっていた。二人は出会ってあっさりお互いの店を閉め、二人の新しい創造物を発信し始める。
その作品たちを山口さんが紹介したのがこの本。

澄さんはたまたま手に入れた壊れた道具の断片を使い、意外な取り合わせや組み合わせで生活の道具を作り出す。彼の作る道具は、多くの古道具屋やエコロジストやセルフビルダーや手工芸家達とは一線を画す。
単なる器用仕事とは異なり、その物の佇まいは何か詩的な感じさえする。たまたま出会ったものから物語を紡ぎ出す。ポエジーの神様は、こうやって才能の上に偶然に降りてくるものらしい。

デザインは消費や流通や経済の活動を促すことだけに使われるものではない。
たった一個でも、一人のためでも、デザインは成立する。本来、デザインは人々の暮らしを豊かにする贈り物だったことを、彼の仕事は思い出させるのだ。
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                               
[PR]

by bookswandervogel | 2008-12-29 00:39
2008年 12月 27日

「あなたの獣」

b0145178_025955.jpg
「櫻田哲生」という男の過ごした人生を、時間を前後しながらも切り取った10の
お話。

なにかにすがるように女の人と付き合うが、彼の行動によってどの人とも長くは居れない。彼が女の方を持て余し、振り回しているようにも見えるが 実は彼の方が振り回され翻弄されているのではないか?

ある女が言う。
「何かが起きたって感じがしない。懐かしくもないし、思い出したりもしない。あたしたち、別れてなんかいなかったみたい。」

死ぬ間際まで女が切れない幸せな男だが、あらゆる女の中に居て「櫻田哲生」は透明人間のようだ。「櫻田哲生」が主役のようで 透明人間を通り過ぎて行った女たちの話。

「透明人間」の彼に対して 憧れと嫌悪感が半分づつ。
なんだかどこかで出会ったことのあるような。
[PR]

by bookswandervogel | 2008-12-27 23:58
2008年 12月 20日

「泥ぞつもりて」

b0145178_0131519.jpg
今まで江戸〜昭和大正期を描いてきた著者の初めての平安時代小説。宮廷の権力争いの中 男も女も互いに求めつつも時代に翻弄される。

始めの表題作から次は 一代遡ったり、スポットの当たる場所を変えてみたりと、読み進めるうちに登場する人物の人となりの濃さが増していく。
一つ前では冷血な印象の人物が、他の場面では胸の内を哀しくさらけだす、
人を一面だけのみ見せて終わらない描き方が面白い。

前作の「群青」が現代の設定で物足りなさを感じただけに(原作が違う人だからか?)やはり宮木あや子は「着物を着ている時代の小説」がとてもいい。

衣擦れの音 衣から香る薫物 メールなんか無い時代の文のやりとり  
におい 肌触り 耳をすます 愛でる 味わう・・・ 五感を研ぎすましていた時代の恋の話は、
女々しくとも哀しくとも とても美しいものに見える。
[PR]

by bookswandervogel | 2008-12-20 00:58
2008年 12月 14日

「日本浄土」

b0145178_0292667.jpg
日本のいずこにもあるようなありふれた土地を徘徊する「日本浄土」の旅。
 
どこの地方の風景も同じく画一化されつつある。土地に元々あるものや昔からの人の気配がまったく感じられない道を、便利にすいすい走ったりすることが多い。(特に国道沿い)
旅する者が感じている「残して欲しい風景」と、その土地の者が欲する風景との差が生じている場所は、日本全国少なくないだろう。

著者の歩く速度で、失われつつある風景の中に息をひそめるように呼吸している命を ひとつひとつ拾う。拾いあげては自分の中にある原風景の日本と今の日本を想っている。

「私は桜の花越しの雲を見ていてふと遠い昔の花見のことを思いだしていたのである。人々は
 頭上の桜の花のように満開だった。あの人間のにぎわいはどこに行ってしまったんだろう。  
 あたかも満開のさくらの花が一気に散るように、人間ってやつは儚い。」

儚いからうつくしいのか 無くなるからいとおしいのか  人も。風景も。
「歩くことだけが希望であり抵抗なのだ。」と語る先は なにも写真を撮ることや物を書くことだけを
意味しているものではないのだろう。
[PR]

by bookswandervogel | 2008-12-14 01:30
2008年 12月 10日

「未見坂」

b0145178_23392051.jpg
「雪沼とその周辺」に続く 尾名川の中流域近くの、ある町。
そこに暮らす人たちの ちいさなよろこびとかなしみ。

母しか居ない少年の同級生、三十代半ばにしてなった理容師のふらりと現れる常連客、親子に見えそうで見えない若い叔母と男の子、母のためにプリンを作る娘、出戻りの店番、兄妹のように暮らしてきた男と女。

そこに暮らす人々の細やかに描かれた日常を読み進むうち、自分もその町の住人になって同じ歳月をいちねんいちねん重ねてきたような、なつかしいような親しみを覚える。


堀江さんの小説はフィクションなんだけれど、読んだひとの頭や心の中には 雪沼や未見坂が日本の「何処かにある町」として残ってしまう。読んだひとにだけ 広がる地図。
[PR]

by bookswandervogel | 2008-12-10 23:55
2008年 12月 08日

「という、はなし」

b0145178_0179.jpg
なるべく偏らず(すでに偏ってるけど。)いろんな作家の本を読んでみようと努力している。これはきっと苦手だぞ、と思っていた作家が読んでみたらすごく良かった経験があるからだ。
その反面、この作家はいつ読んでも大丈夫、安心、はずれなし。という作家も居る。

クラフト・エヴィング商會の創る本は、装丁も中身もはずれなし。
かなりな長編や内容の重い本など読んだ後には 息抜き本としてオススメする。

なんというか 読んでてぱん!と膝を打ちたくなるというか、山椒のようにぴりりと小粒で効くというか、あぁこういう人が同じ地球に居てくれて助かった、とか・・。
息抜き本なのだけど、フジモトマサル氏の妙な絵(←褒め言葉です。)と吉田氏の文が1+1=2以上のものを出していて、う〜んと唸らせるものばかり。

目を開けたまま、おもしろい夢 見れますよ。
[PR]

by bookswandervogel | 2008-12-08 00:32
2008年 12月 07日

「みてまわる日々」

b0145178_0544943.jpg
展覧会に行くのが好きだ。学生の頃は勉強に・・と思って出掛けていたが、今は何かで展覧会の広告を目にした時のぴぴっ!とか むむっ!とか「これは是非目に入れたい。」という感覚を素直に受け入れたくて、忘れずメモして行けそうなものは見に行く。

好きな作家の展覧会図録などを偶然古本屋などで見つけても、やはり自分で目にしたものでないから感動は無い。行って、見て、何か感じ取ることができた展覧会の図録は そこらへんの本より何倍もの価値が出てくる。

堀井和子さんが足を運んだ展覧会の数々。堀井さんの著書はあまり読んだことが無いけれど、偶然にも「ル・コルビジェ展」「アントニン&ノエミ・レーモンド展」は私も行って、とても良かった展示だったのでうれしい。また「好きな美術館」に世田谷美術館、近代美術館 鎌倉を挙げていて、それも同じでうれしい。アレクサンダー・カルダーやジャン・プルーヴェもお好きみたい。

日本を代表するおしゃれさんと同じ趣味だなんて。
まるで自分もおしゃれさんになったようで。

本の残り半分はフランスのお話。本物のおしゃれさんはフランスでクルジェットやイル・フロッタントを食べている。   うーん・・どんな料理か想像もつかない・・。
[PR]

by bookswandervogel | 2008-12-07 01:39
2008年 12月 04日

「百瀬、こっちを向いて。」

b0145178_073011.jpg
だれもが世界の中心は自分、だけれど あえて世界の中心に居るのを避ける、という種類の人達もいるのだ。
主人公はいわゆるモテない クラスでも目立たない いや、自分からあえて存在を消そうとしている男子高校生。
「だれかの体温とはこんなにも人を安堵させるものなのか。だからみんな、恋愛がど うのこうのと言いやがるのか。さてはそうなんだな。」
思いがけず恋してしまった自分に一生懸命ブレーキをかけようとするが、効かない。授業中に思い出しては息苦しくなって、前傾姿勢になって耐えたりしている。

彼が出会った初めての恋。
それに対する自分と葛藤する場面が、可笑しく微笑ましくかわいい。

短編4作とも あおーい あまーい恋愛小説。2作目の「なみうちぎわ」は映画化できそう。
[PR]

by bookswandervogel | 2008-12-04 00:52
2008年 12月 03日

「最後の冒険家」

b0145178_23494659.jpgb0145178_23502523.jpg
表紙の写真を見て 涙が出そうになった。

打ち上げられたゴンドラは神田道夫と石川直樹が2004年に第1回目の熱気球太平洋横断に挑戦した時のものである。挑戦は失敗し、二人の乗ったゴンドラは荒れた海上に着水した。その後の2008年1月、神田は第2回目の飛行に単独で挑戦し、消息を絶つ。                                                                                       2004年海の彼方に消えたはずのゴンドラは、2008年夏 日本の秘境とも呼ばれる吐噶喇列島の悪石島に漂着する。まるで神田が執念で送った手紙のように。

2007年の「coyote」に神田道夫の世界と題して特集が組まれ、そこで石川直樹は最初の太平洋横断に同上した体験から「最後の冒険家」として神田のことを書いている。
今回出版されたものは、それにその後を書き加えたもので 最初の挑戦の詳細や神田道夫の冒険家としての気質が石川の冷静な目線から書かれている。
「公務員の仕事をしているときの神田は世を忍ぶ仮の姿であり、気球に乗っているときにこそ、生きている実感を得ることが出来た。さらにいえば、気球による前人未到の冒険を実行するときにこそ、彼は自分自身の存在を認め、まばゆいばかりの強い光を内側から放ちはじめる。
神田にとって、気球は自らの生と直結するアイデンティティそのものだったとぼくは考える。」

「世の中の多くの人が、自分の中にから湧き上がる何かを抑えて、したたかに、そして死んだように生きざるをえないなかで、冒険家は、生きるべくして死ぬ道を選ぶ。ぶれずに自分の生き方を貫くことは、端から見れば不器用に見えるかもしれないが、神田は本当の意味で生きていたのだ。自分の衝動にあらゆるものを賭け、全力で生き続けたのだ。」

他人から見て意味のないこと 無駄だと思われるようなことに情熱を注ぐ人に心奪われる。
何故か無性に愛おしいと感じてしまう。
神田さん、いまどこに居るのですか?  遠い空の雲の上 今だ飛び続けるあなたを想像せずにはいられません。
[PR]

by bookswandervogel | 2008-12-03 01:08