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2009年 03月 24日

「現実入門」

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『必死の思いで現実に立ち向かう』と帯に書いてある。
穂村弘が人生の経験値を上げるため、立ち向かった『現実』は 献血、コンパ、はとバス、占い・・・。

42歳の穂村弘は、未熟さ加減 妄想の激しさ ダメ男ぶりは相変わらず。
内向きな彼特有の感覚で 様々な初体験を語るが、現実の出来事と脳内妄想が混沌としていて逆にリアルな感じ。だっていろんな事考えるでしょ? 何かに集中しているように傍から見えても、実はぜーんぜん違うこと考えてたり。

これを読んでから、何か予想しえなかった現実に直面したとき 始めの章のタイトル、『現実だな、現実って感じ。』が頭をよぎります。
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by bookswandervogel | 2009-03-24 23:48
2009年 03月 19日

「不連続の世界」

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大好きな作家、というわけでもないのだけれど なにげに読んでる恩田陸。
主人公が日本を旅して綴る連作短編。

中でも尾道が舞台の「幻影キネマ」がよかった。

人は、あまりにも辛いこと悲しいことがあると 背負いきれずに、本人の意志とは別の方向の気持ちが現れたり、行動をとってしまったり、ということがある。受けとめたくない認めたくない、そんな思いが意識より下で働き、知らずに行動を起こさせる。

多くの人が犠牲になった事件や事故で、無事だった人がその後 加害者でもないのに自分を責めたり、助かったのに死にたくなったりするのは、そういう現れだろう。
とても悲しいお話だけれども 結末はほろりとあたたかい。

どの話も怖いのだけど、最後には救いがあるというか、隙間に光が見える感じ。
恩田陸を読んだことが無い人にオススメしたい本。
主人公は「月の裏側」という既刊本に出てくる人物だけれど、特に先に読んでおく必要なし。
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by bookswandervogel | 2009-03-19 01:21
2009年 03月 13日

「ファミリーポートレイト」

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第一部は母と娘の物語。
救いのない生活を送りながらも、母への愛という使命感と彼女を支える本との出会いで
幼い少女は幻想的な世界をきらきらと生きる。

第二部は大きくなった娘のその後の人生が描かれる。
物語を愛した娘は成長し、かつて彼女の全てだった母の幻を求めながらも、どこにも存在しない人間として生きてきた彼女が、自らの物語を少しずつ紡ぎ始める。


少女期のコマコが 読んだ物語の中で生き生きと立ち振る舞う場面がとても可愛く、愛おしい。
この頃の年代の あちらとこちらの世界の曖昧さがとても上手く描かれている。

この本が好きだ、といったら「暗いね。」と言われそうな本のような気がするけれど、
自分の中で桜庭作品No.1だった「赤朽葉家の伝説」を超えたかも。
いろいろな場所に連れて行ってくれる、読書の醍醐味を再認識させられた。
物語を愛する著者の自叙伝のような作品。
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by bookswandervogel | 2009-03-13 23:03
2009年 03月 06日

「元職員」

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ゆっくりゆっくり破滅に向かう様子がリアルな小説。
タイトルからして、話の流れは始めから判っている。

タイに一人旅行に出た彼は 田舎から出て来た、人の良いどこにもよく居る日本人観光客だ。
タイで出会った娼婦との、まるで青春の1ページを切り取ったような きらきらした瞬間。
しかしそんな彼の中で、弱く怯える人間と 冷淡で大胆な人間が代わる代わる現れる。
 

犯罪に対する決定的な結末は現れない。
真実が暴かれることもない。
嘘に嘘が重なっていく怖さ、犯罪が日常的に繰り返されることで慣れていく過程、自分のしたことを客観的に見れるような無意識さ その反面に現れる洪水のような恐怖感。
それだけで どれだけの罪を背負っているのか 十分過ぎるぐらいわかってしまう。

人も 会話も 設定もリアルで終始薄ら寒い。
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by bookswandervogel | 2009-03-06 23:21
2009年 03月 03日

「納棺夫日記」

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「おくりびと」がアカデミー賞を穫り、話題の原作。
昨年から友人に薦められていましたが、偶然にも古本屋で単行本(しかもサイン入り!)に出会って、ようやく読みました。

最初の2章までは、映画の原作となった青木氏の”納棺夫”としてのエピソード。

けれど この本がすごいのは、第3章から納棺夫を職業として見てきた著者の死生観が全体を通して、大きなテーマとして書かれているところ。
「ひかりといのち」では「死」=忌み嫌うもの ではなく、宮沢賢治、三島由紀夫、また親鸞やブッダ 宇宙理論からニュートリノまで引用して、著者の体験した「ひかり」を語る。

他に童話、自選詩、幼年期の旧満州での体験を小説にしたもの、表現はばらばらではあるが 
ひとつ芯の通ったものがあるので、全く違和感がない。むしろ全体で大きな作品に仕上がっている。

「今日のように日常生活の中にも思想の中にも死が見当たらないような生の時代には、死は隠蔽され、死は敗北であり悪であるとする傾向にある。
死を忌むべき悪としてとらえ、生に絶対の価値を置く今日の不幸は、誰もが必ず死ぬという事実の前で、絶望的な矛盾の直面することである。」

最新医学をはじめ、死をタブー視する現代社会に 一石を投じる原作からの映画。
世界で評価されたことは、人間は誰しも確実に「生きて、死ぬ」という事が平等にある未来だからだろうか。
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by bookswandervogel | 2009-03-03 23:58