BOOKS WANDERVOGEL

bookwangel.exblog.jp
ブログトップ

<   2009年 04月 ( 7 )   > この月の画像一覧


2009年 04月 26日

「恋文の技術」

b0145178_23485322.jpg
『巧い!』と素直に誉めず、『ズルい!』『やられた!』とひねくれ評価をしたくなる森見作品。
今や だめっこ男子を描かせたら、右に出る者は居ないだろう。

遠く離れた実験所に飛ばされた院生の守田くんが先輩に 友人に 妹に 愛する人にと、手紙を書いて書いて書きまくる。
文通をしているのだけれど、読めるのは守田くんが書いた方の手紙だけ。
読者は彼に返信された読むことのできない手紙の内容を、彼が書いた「返信への返信」で読み取る。
書いていないことを「読ませる」。この作家の技術はすごい。
手紙の上で 物事が、時間が進む。

森見さん独特の語感で綴られた手紙は小気味よい。
それぞれに書いた手紙のように見えて、それらがだんだんに繋がってくる構成は見事。
彼の先輩の森見登美彦氏への手紙はくくく・・と脇腹が痛い。
[PR]

by bookswandervogel | 2009-04-26 23:58
2009年 04月 23日

「咲くや、この花」

b0145178_021947.jpg
「左近の桜」の続編。このシリーズはまだまだ続きそう。
男同士が忍び逢う 宿屋「左近」。その宿の長男・桜蔵はその気はないのに、妖しいモノ(現世の者でない、しかも男のみ)を呼び寄せてしまう。

前作の「左近の桜」と同じで、短編のパターンが 誘われる→いつの間にか落ちる、と決まっている。
けれど、男色の世界でも 結局同じ流れでも わくわくページを繰る手が止まらないのは、こちらの世界とあちらの世界が知らないうちにひっくり返っている面白さと、粋な言葉が出てくる台詞、風景や色彩、香りを表現する文章が色っぽく、艶っぽく、魅力的だからだろう。

現代が舞台のはずだけれど、使われる言葉が古めかしく日本語の美しさが際立つ。
桜蔵自身の礼儀や所作は、妖しいモノと関わりながらも清々しい。
がちゃがちゃとした今の時代でも「美しいこと」に常に重きを置くと、本当はこんなにも いろいろなものの美しさに目を奪われながら 日々彩り豊かに暮らせるのかも知れない。
[PR]

by bookswandervogel | 2009-04-23 00:22
2009年 04月 21日

「猫を抱いて象と泳ぐ」

b0145178_222705.jpg
チェスどころか、将棋や碁も知らない。
読む前に知識のカケラも無いので どうかな?と思っていたが、何の問題もなかった。
ただただ昔読んだおとぎ話のような、繊細で美しい文章に最後まで心地良く身を任せればよかったのだ。

出てくるのは チェスを教えた巨漢のマスター、大きくなり過ぎてデパートの屋上から下りる術を無くした象、壁の隙間から出られずミイラになった女の子、からくり人形の中でチェスを指す主人公の男の子。
誰の目にも止まらない、控えめでひそやかな彼らだけの世界。

ぽつりぽつりと彼らが登場しては 優しく温かい、けれど何かもの悲しさがつきまとい、予感を孕みながらラストを迎える。

駒を並べ、動かす手の仕草 それぞれの個性を持った駒の動き 次の一手を思慮深く考える顔・・チェスの対戦場面の描写がとても細やかで、まるで息をひそめて対戦を見守る観客になったような気分に浸れる。
[PR]

by bookswandervogel | 2009-04-21 23:21
2009年 04月 19日

「この胸に深々と突き刺さる矢を抜け」

b0145178_2246579.jpgb0145178_2246496.jpg










白石氏の著書はほとんど読んできた。
しかし『私という運命について』以降響く作品がなく、今回の長編も疑ってかかってしまい(装丁にまず惹かれない・・)危うく読み逃すところだった。

こんな小説読んだことがない! 小説ってこんなこともできるのか・・。
作品に隠された様々な「しかけ」に驚きつつ、とまどいつつ読み進めた。
政治 経済 格差社会 マスコミ 組織 宗教 家族 夫婦関係 性 病気 そして死・・・。
主人公の編集者・カワバタが細かく分けられた章の中で、哲学的な思索にふける。
彼の立っている場所が特別で、取り上げるテーマも多くを盛り込み過ぎているようにも見えるが、私達の立たされている場所は、実は彼と何ら変わりがない。
混迷する社会に 彼と共に立っているのだ。

現実世界はこんなにも厳しいけれど、この時代をどう生きるべきか?
語る主人公は著者自身なのだろう。
「正しい答え」を常に持っているのではなく、善も悪も合わせ持った一人の人物の、時に青臭い意見だからこそ 信用して耳を傾けることができる。

小説は物語に乗り推理小説のような趣きも見せ、彼が思惟をめぐらせ 自分に響く言葉として名著から引用する部分は哲学書のよう。

本を読む際に、自分の好きだと思う部分や 響いてくる言い回しの部分 この本のここが核なのかな?と思われるところにレシート(しおりじゃ足りないので。)を挟んでいくのが私の癖なのだけれど、この厚い上下巻、読んだ後にはレシートだらけ さらに分厚くなっていた。
[PR]

by bookswandervogel | 2009-04-19 22:43
2009年 04月 11日

「悼む人」

b0145178_111578.jpg
いかなる死者も平等に 死に方ではなく「誰に愛され、誰を愛し、何をして感謝されたか」のみに目を向け、亡くなった場所で悼む旅を続ける主人公・静人。
まるで聖者のように自分を犠牲にしてまで、全く他人の死まで自らに刻み込もうとする彼の行動に最後まで理解に苦しんだ。

遺族や近しい人を無くした人から見て、死者について上辺だけを聞きまわり、わかったように死を悼み、また次の死者へと旅する行為は どんなに突き動かされる思いがあったとしてもエゴに走っているようにしか映らない。

誰の命にも軽重は無いのはわかる。が、やはり近しい者の死は他人の死よりも重いもので、その人の今後の人生までも変えてしまうほどのものだ。
誰の死も平等にと言いつつ、新聞記事に載った事件・事故がほとんどで、殺人者などの死は 被害者側を3回悼んでから、とか彼が「旅を続けるために作った」ルールも理解できない。
もし自分が死に瀕した誰にも看取られず遺族も居ない者であれば、死後も自分の存在を憶えていてくれる、という静人の存在は とても安心でき 尊いものであるだろう。
けれど 死=無という考え方もある。
誰しもが憶えていて欲しい、と望んでいるように思うのも、独りよがりな考えにも感じた。

病に冒され、死に向かう静人の母が 彼を訪ねてきた者に対して問う。
「静人はあなたにどう映ったんです?あなたには何を残しましたか?そしてあの子が悼みを行った、亡くなった人々のことを知り、あなたには何が残りましたか?」
この本のテーマはここにある。
静人の旅を他人事として見ながら、それぞれの死生観を自ら知らず知らずに問うことになる。
[PR]

by bookswandervogel | 2009-04-11 01:36
2009年 04月 06日

「本屋大賞2009」  本の雑誌増刊号

b0145178_051361.jpg
今年の本屋大賞、決定しました。
私はこの賞がとても好きで、本屋になってからかかさず参加しています。
直木賞 芥川賞が日本の総裁選で、本屋大賞はアメリカの大統領選、みたいなところ。
毎日書店に勤める本好き書店員が、お勤めの合間に読書にふける姿や、投票時に熱い思いをキーボードにぶつける姿が目に浮かんで愛おしい気持ちになります。

今年大賞に選ばれたのは私が推した作品ではなかったけれど、「推薦の声」を読むと、捉え方の違いや読み方、批評の表現の仕方にわくわくして、あぁ・・できるならここに載ってる人達とあーでもない こーでもないとお話してみたい・・と思うのでした。
(まず「ミステリーをわかってない!」と指摘されると思う・・。)

データを見ると、毎年投票数は増えている様子。
本屋大賞に選ばれた作家は、やはり読者に向けて作品を発表しているのだから、特別な感慨があるのではないだろうか?
インターネットでも本が買える時代だけれど、やはり「町にある本屋」から出版業界を元気にしていきたい。
本との出会いを魅せられる書店員がこんなにも居ることに、毎年勇気づけられる。
[PR]

by bookswandervogel | 2009-04-06 23:55
2009年 04月 03日

「告白」

b0145178_22153999.jpg

話題の作家。本屋大賞をこの度受賞。
ということで、読んでみた。

ある教師が終業式を終えて 生徒を前に静かに語り出す。
ある「告白」をするために・・・と出だしは衝撃的な始まりとしての告白、にどうなるの?とわくわくと読んだ。
けれど誰の側からも主観のみで書かれたその告白は、ただそれぞれの相手を「あいつこそ馬鹿だ」と蔑んでいるだけに過ぎない。

個々が抱える事情や生い立ち、その行為までに至った背景や心情を語っているにしても薄っぺらく、なんの罪も無い小さな少女が殺されたという重みが、母親の告白からでさえも感じられない。

ゲームのような殺され方と、心の内側を深い部分まで掘り下げることのない展開が、現代らしいと言えば現代らしく、その救いの無さが狙いか?と思えば 巧い、と思うのだがそうではないのだろう。

作家としては興味ある人物だっただけにがっかり。
[PR]

by bookswandervogel | 2009-04-03 22:58