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2009年 05月 30日

「本の未来をつくる仕事/仕事の未来をつくる本」

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若いゆえに直球で、素直。自分の可能性を信じてるから 未知の分野に飛び込むことにてらいが無い。そんな勢いのある内容と文章。

本の面白さを信じている人だ。本嫌いな人、本と普段関わりの少ない人、本の世界にどこから入っていいかわからない人に対して どうしたら本を楽しんでもらうことが出来るか?をあらゆる方向から考える。

私などは読書が趣味では無い人にはその他にいろいろな趣味がおありなのでしょう、という考えだけれども、内沼さんは現代の若者における『本』の位置や、時代の流れに乗った出版物への危機感などを問題提起していて、”ブックコーディネーター”という今どきな肩書きはついているけれど 本の業界に対して冷静な見識も備えている。

面白いなと思ったのは内沼さん世代(30代前後)を軸として、その親は「本を読まないやつはバカになるぞと思っていた世代」で、内沼さん世代は「本を読まなきゃいけないとどこかで思っている世代」、そしてその下に「本は自分とは関係ないと思っている世代」が生まれてきているという項目。
自分達の世代は、おそらくぼんやりとでも奥底に本に対する興味がある人達だけれども、その下の世代に向けて「これを読むべき」とか「こう読むべき」などと強要せずに『自然と入りたくなる本の世界へのドア』を作るのが彼の夢なのだ。
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by bookswandervogel | 2009-05-30 14:30
2009年 05月 29日

「滝平二郎さん」

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切り絵作家の滝平二郎さんが5月20日に亡くなりました。享年88歳。
斉藤隆介・作 滝平二郎・絵のコンビ作が好きです。
『モチモチの木』『花咲き山』『三コ』『ふき』『八郎』・・・どれも訛りのある方言で語られていて、すいすいと読み易い本ではない。絵は優しいタッチではなく、力強くて訴えかけるものが鋭い。

確かに本屋に置いても、今どきな感じではないので 若い親はあまり選ばない本だろう。
でも私達の世代は このコンビの絵本は必ず通った本で、特に『モチモチの木』などは怖い内容の本ではないのに、何か強烈な印象を受けた覚えがある。

『三コ』『ふき』『八郎』などは、大人が読んでも泣けてしまう本。子供が読んだら、少し残酷なシーンもあるので刺激が強いのでは?と思えるほど。
でも絵本ひとつで、心にこんなに衝撃を受ける本はあまりないのではなかろうか。
斉藤さんの独特の語り口と 滝平さんの力強い絵が、小さいひとたちの心にざぶんと大きい波を立たせる。

優れた作品は 作ったひとがこの世から居なくなっても、ちゃんと残る。
どんなジャンルでもそれがアーティストのすごいところ。
心よりご冥福をお祈り申し上げます。
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by bookswandervogel | 2009-05-29 00:56
2009年 05月 21日

「純情エレジー」

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この著者は官能的表現がよく話題にされるけれど、その部分以外の話のひだの部分がとても丁寧に描かれていて、いわゆる刺激的な官能小説を読んだような読後感は無く、むしろぎゅうっと胸の奥がせつない。
姫野カオルコ若い版、といった感じ?の真っ当な純文学。

短編7編 どれも彼と彼女の確立した関係は無い。(一編だけ夫婦という設定はあるけれど。)
安定した未来や周りに認められる安堵感などとは無縁だけれど、その時に出会い、その時にお互いが必要だと思ったものが全てある、純粋で刹那的な距離間。

現在休筆宣言している豊島さん。
小説新潮での、休筆について書かれた文が とても真面目でその分苦しそうなのが印象的でした。
待っていますよ ゆっくりと。どうか心朗らかに暮らせますように。
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by bookswandervogel | 2009-05-21 01:02
2009年 05月 20日

「見えない音、聴こえない絵」

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ある日、小学生の大竹少年は『学級新聞』なるものを作る係を任せられる。渡された模造紙を見て「こんな大きな紙がこの世にあったのか!」と驚く。家に着き、畳の上に広げ、何かを描きたいという思いが込み上げてくる。(既に学級新聞という文字は頭から消えている・・。)

ーふと、デカい「ポパイ」を描こうと思った.そうだ「等身大のポパイ」だと思った。自分と同じ大きさのポパイしかないと思った。これはヤッタゾ!という気持ちになった。デカい「紙」にデカい「ポパイ」、これ以上の考えはありえない気分になっていた。あとは描くだけだ。ー
果たして大竹少年は等身大ポパイを描き上げ、さらに輪郭に沿って切り取る。
これが「コラージュ」初体験ではなかったか?と本人は語る。

作品の制作に直結する衝動や思いを、誰もが知りたいと思っている。
その「わからなさ」を探ろうと、人は展覧会に足を運ぶのだ。
著者は言い切れないもどかしさ と 届くことのないもどかしさを理解しつつも、この本では可能な限り、その「わからなさ」を言葉に置換えていると私は思う。

その後、切り取ったペラペラでフニャフニャのポパイと大竹少年は、畳の上に並んで寝て 天井を見上げる。
なんてすてきな原風景だろうと心打たれた。
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by bookswandervogel | 2009-05-20 01:09
2009年 05月 13日

「しずかの朝」

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25歳独身のしずかがある日失業し、気乗りのしないお見合いをして、ある人と出会い・・何か見えないものに背中を押されて、知らないうちに前に進んでゆく・・。

人と人の出会いの妙や つながりを紡ぐ素晴らしさを描きたいのだと思うが、何か柱となる太いものに欠けて、訴えたいものが分かりづらい。女の人の生き方を様々な境遇・年代から見つめてはいるが、祖母の入江麻木さんに捧げるものなら、もっとストレートに彼女のことを描けばいいのにと悔やまれる。祖母がモデルと思われるターニャは会ってみたいほど魅力的な女性なのだ。

お見合い相手の小村さん。こういう人に私は惹かれる。
一見、何の主張も個性も無さそうな地味な容姿。けれど何をしていようと その人の中にある世界が広くてどんな人でも柔らかく受けとめられる。丁寧に生きながらも、いつも自分にとって面白いことを探すのに貪欲で目をくりくりさせているような。
素敵な人に出会って、その後その人が目の前から居なくなろうと、出会ったからこそ今の自分があると思えたのなら後悔することなんてひとつもない。
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by bookswandervogel | 2009-05-13 00:38
2009年 05月 10日

「きのうの神さま」

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『ゆれる』の映画監督・脚本家として脚光を浴びた西川美和。映画の後に小説化された『ゆれる』に続いての2作目。

『ゆれる』を読んで、プロフィールを見て、この人は何なんだ!?と当惑した。今回も読み終わってその小説表現の巧さに驚いた。

「きのうの神さま」という表題作は無い。
医療に関わる人を題材にした短編小説とあるが、「医療」と言ってもこの人が取り上げる部分は誰もほとんど目がいかないようなところだ。
そういえば、よく見たら装丁もなんかちょっと風景がおかしいぞ・・・?
この人が作る作品は個性的なんだけれども、出てくる人と人との間に流れる空気に既視感があると言うか、なにか懐かしい感じを憶えるのだ。

絶対的な悪ではなくて、普段は忘れてしまっているけれど ある時ふっと顔を出す陰の部分。いわゆる「いい人」が油断してちらりと見せてしまった その人の隠していた棘のようなもの。
それらを日常の中でさらりと描くのが、この小説家の真骨頂だろう。
あれ小説家だっけ?映画監督?脚本家? 活字でも映像でも、この人の作品から目が離せない。 
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by bookswandervogel | 2009-05-10 02:15
2009年 05月 02日

「本屋さんに行きたい」

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出るとついついうれしくて買ってしまう”本屋本”。
白っぽい写真が多くて ちょっと今どきっぽいおしゃれな装丁。
載っている本屋は東京の有名店もあれば、地方の小さな古本屋まで。

写真が多く店主のインタビューもさらりとしたもの。
でもそれが「こんな本屋もある。どうだ!」と変に気負った感じを押し出すものではなく そこに在る雰囲気をそのまま見せたい、という著者の意図したことだろう。


インタビューの中から。
「本のことを知らない人にも、いい本の情報を届けたい。」ー artos Book Store
「広さはないけれど、狭くても深く潜っていけるようなお店。」ー beyer
「目的を持って本を買うのなら、ネットで十分。本屋は、本と出会う場所だと思っています。」ー 森岡書店
「コミュニケーションの場所としての本屋というのは強く考えています。」ー 百年
「書店の数が減り、チェーン店の割合が増えているなかで、『どこでも同じじゃない情報』を得られる場の持つ役割って、すごく大きくなっていると思う。だからこういう店を、なくしてはいけないなと思っています。」ー恵文社一乗寺店

街の本屋が消え、どでかいチェーン店がどこでも同じベストセラーばかり売る中で、小さいながらも「いろんな世界の入り口」を見せてくれる本屋が、これからもたくさん増えますように。
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by bookswandervogel | 2009-05-02 18:52
2009年 05月 01日

「詩と死をむすぶもの」

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ホスピス医療に携わる医師と詩人の往復書簡。

日々死に立ち会う医師は、生き生きと精気に溢れた悩みや問いを投げかけ、それに対して詩人は深海の底から発せられるよう静けさで答える。その静と動の対比が面白い。
安心したのは 60歳、35年も臨床の現場にいる医師が子供のように「あれはどうして?」「これはどう思う?」と迷っていること。「矛盾していなきゃ現実ではない」と思っているということ。

毎日に体当たりして、気持ちもころころ変化して、一人一人の患者さんにえこひいきがある!と堂々言ってのける人間臭さにとても共鳴した。

「和解」がテーマの章。78歳の詩人の答え。
「古語辞典を引くと『許し』と『緩し』は同じ語源であることが分かります。①引き締められず、ゆとりがあるさま。②おろそか、怠慢。③寛大であるさま。なかなか含蓄が深いとは思いませんか。他人に対してゆるゆると良い加減であることもまた、和解の一つの条件なのかもしれません。」
自分と異なるパーソナリティ、自分と異なる感じ方、考え方を敵視せずにいるには、いろんなところを怠慢にゆるゆる緩めるといいんですねー、俊太郎さん。
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by bookswandervogel | 2009-05-01 23:59