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2009年 07月 31日

「ヤイトスエッド」

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自分の中にある性癖を隠すために、女は”サタン”の出てくる妄想を始める。
工場で毎日真面目に働くために、男たちは狂気じみた儀式をくり返す。
ひとりの人を愛し過ぎる自分を抑えるために出た、ある男のある行動。

すべて保障された安全な社会に住む、まともで真面目なひとたち。
皆 何かをまともに保つため、社会から見た自分を保つために狂気を内包している。

「なぜあの人があんなことを?」という突発的ともいえる事件が増えている。
保っている、と思っていた糸がぷつんと切れた瞬間なのだろうか?

全体に下品でおバカな文章に、そしてふいにぷつりと切れる終わりかたに、その危うさが見え隠れしているようで怖い。
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by bookswandervogel | 2009-07-31 23:56
2009年 07月 28日

「薬屋のタバサ」

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『過去の時間を呼吸しながら生きているような』町の薬屋の店主タバサ。そこに、これまで生きて築いてきた現実の世界の住人だった自分を すでに消そうとしている女・由実が転がり込む。

町のほとんどの人の出生届と死亡診断書をタバサが書く。
「大丈夫ですよ。この町の中だけで生きてきたのですよ。私も、この町の、ほとんどの人たちも。」

生きて、今ここに存在する誰かと濃密に触れ合う。そんなことは二度とできないと思っていた由実に、タバサは 町の人たちはしずかに浸透してゆく。
けれど由実はタバサに聞く。
「世界は、ほんとうに存在しているのかどうか、疑問に思うことはありませんか?」
自死したタバサの母が残した たった二行のメモ。
「なにもかも、夢であるように思えます。どうしても どうしても」

タバサの家にある池は 埋めても埋めても埋まらない。
どろんとした池の水のような 過去の重さが町に、人に漂う。
夢かうつつか・・という世界を東直子独特の文章で惹き付ける。
装丁はかわいらしくPOP。だけどタバサは女でなく男。
見た目や絵本のようなタイトルとのギャップに おお・・!?となるかも知れない。
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by bookswandervogel | 2009-07-28 01:21
2009年 07月 24日

「宵山万華鏡」

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宵山 祇園祭 金魚 夏簾 駒形提灯 露店に浴衣・・・・そんなキーワードひとつひとつを思い浮かべても、なんだかうっとりする京都の夏の一夜のお話。

表紙のイメージそのままの絢爛とした世界。
華やかさの裏にはちょっとした闇が潜む。スピード感溢れるドタバタ劇の裏側は、ゆらりとした空気を孕んだ妖しい世界。
表と裏は背中合わせにくっついて、めくるたび現るお話は違う世界の様でいて数珠つなぎ。

構成の巧さに舌を巻きます。まるで宵山見物をしてきたかのような、人込みの多さに疲れたけど楽しかったね、みたいな心地良い疲労感が読んだ後に残る。
この夏、どこにも行けない人に贈る めくるめくきらきらまわる万華鏡。森見登美彦の京都へおこしやす。
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by bookswandervogel | 2009-07-24 23:47
2009年 07月 18日

「あの子の考えることは変」

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うむむ残念。本谷第二回目の芥川賞候補に上がるも受賞を逃しました・・・。次点だったという噂も。山田詠美選考委員の評価はかなり辛口だったけど。

岡田利規や前田司郎、戌井昭人といった若手劇作家が小説界をじわじわ揺すぶりかけている。その中でも群を抜いて注目度の高い本谷有希子だが、敗因はいったい何だったのか。

田舎で同じ高校だった同級生との、ひょんなことから始まった共同生活。
「塔」のある街で、問題ありありな女子二人のへんてこな暮らし。
『あの子の考えることは変』と言っている『この子』も相当ヘン。
二人はまるで鏡を見るように相手を見て、それでも「こんなのは自分じゃない」と否定する。
やはりテーマは自意識。テンポよく進み 徐々にスピードを上げていく疾走感はさすが。
けれど今回は今までに無くエロとグロが炸裂!
本谷作品を全部読んできた私でもちょっとひくくらい。いい気分で仕事に向かいたい通勤中の楽しい読書の時間にはちょっと・・・と避けるくらい。

でもラストがなぜか爽やかで晴れやか。泥の中から ぷっくりと美しい蓮の蕾が出るような。
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by bookswandervogel | 2009-07-18 23:57
2009年 07月 17日

「もう私のことはわからないのだけれど」

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なんの前情報も無しに読んでみて驚いた。今までのカオルコ作品にはなかった異色作。
けれど『日経ヘルスプルミエ』に連載されたこの作品はご自身の体験から書かれたものらしい。

家族に介護を伴う病人がいる人の、『普通の人がもらしたつぶやき』と帯にはあるが、実際は誰に対しても言えないひとりごと、うまく言葉にできない心の奥の奥。

「病気になった親のそばにいないってことは、いけないこと」
「会いにいくのはやさしさからではない、自己満足だ」
「世の中のもっと大変な事情の人に悪いって思うし」
「思ってしまって、思っちゃいけないって言い聞かせるの」
介護の苦労話は実際、人にして盛り上がるような話ではないし、家に病人がいることで褒めてもらえるようなこともない。
ここで語るそれぞれの「ほんとうのこと」は誰かに伝わることのないモノローグだ。
けれどこれを読んで想像するのはとても容易いこと。近くても遠くても、誰にも家族はいるものだから。
リアリスト・カオルコの放った変化球は かなり胸に痛い。
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by bookswandervogel | 2009-07-17 01:01
2009年 07月 16日

「整形前夜」

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2005〜2008年までの いろーんなところに載ったエッセイを一冊にしたもの。
ほんとうにこの人は新聞から雑誌から、今やひっぱりだこなのだ。

なので「はじめての本」というタイトルの章にはじーんときた。「みてるひとはちゃんとみてる」はずだから「みてるひと」に今に見てろ、と自費出版で本を出すまでのお話。
誰にも読まれないかも・・・と脅えながらながら出来上がった本を抱いて眠る穂村さんには、きゅんとする。

子供の頃の夏休みは自転車と本だけが友達で、駅前の本屋さんで立ち読み(2〜8時間も!)したという一見たいへん地味なエピソードも、『無色透明な硝子が何色の光にも染まるように、一冊の本を読んでいる間、それだけが私にとっての世界の全てだった。』とはなんとも眩しい思い出ではないか。
人生経験値が絶対的に少ない少年期、なにかすごい世界の入り口をひとり内緒で見つけてしまったかのような、頭の中にごっくんごっくんと音をたてて物語が入っていくような感覚を青々と思い出した。

脱力系のいつものエッセイも楽しめるが、必読は「言語感覚」や「共感と驚異」について真面目に書かれた章。
このとき眼鏡がきらっと光ってる。きっと。
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by bookswandervogel | 2009-07-16 00:39
2009年 07月 08日

「君が降る日」

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恋人の死をテーマに書いた表題作。
死に至るまでを書いたのはたった1ページ。
それからは残された彼女の 心の動きが丁寧に綴られる。

不慮の事故で友人を死なせてしまった五十嵐さんと、恋人を失った志保。
彼らは、ある時は互いを妬み、ある時は理解しようと歩み寄り、やはり離れるべき と距離を取り、何か答えが欲しくてまた求め合う。
失ったものが大き過ぎる。時が経てば風化はするけれど、完全に拭い去ることはできない。

賛否両論ありそうな行動をとる五十嵐さんだが、他の2つの短編に出てくる男の子は、私にとっては出来杉くん(←『ドラえもん』に居たでしょ?)にしか見えない。
五十嵐さんは 暗くて まじめで 迷ってて 弱くて 甘えてて ずるい。
彼の発言や行動はいちいち嫌なのだけど、いけすかないのだけれど、なぜか解ってしまう。

「野ばら」という終わりの短編で、谷川俊太郎の詩を引用しているが、「君が降る日」にもつながっている気がする。
 
      ほんとうに出会ったものにわかれはこない
      あなたはまだそこにいる
      目をみはり私をみつめ くりかえし私に語りかける
      早すぎたあなたの死すら私を生かす
      はじめてあなたを見た日からこんなに時が過ぎた今も   

                         『あなたはそこに』
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by bookswandervogel | 2009-07-08 00:43
2009年 07月 04日

「初恋温泉」

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これ読んでなかったなぁ‥‥と文庫売場で手にした。
「初恋」で「温泉」なので、なんかほんわかしたお話?と思いきや、それぞれの短編から出る湯煙は濃く、温泉地という非日常の中で 赤裸々な日常の問題を突きつけられる。

終わりかたに余韻を残す、吉田修一ならではの作風。
男と女の 同じ場所に立っていながらも、気持ちは微妙にズレている感覚を鋭く描いている。
けれど、どのカップルもその『ズレ』が似通っている感じが否めない。
ほんとにそうかなぁ?この立ち位置が逆な場合もアリなんじゃ?
出てくる男性は雄々しく威張ってるような印象が強く、そしてどの女性も一歩身を引くタイプで関係性が古風な気もする。

「この気持ちがいつかなくなるなんて、いくら考えても想像できなかった。」
最後の「純情温泉」は、誰もが記憶にある 若いカップルの単純で純粋でくすぐったいお話。
この短編の並びが絶妙!
最後の話を読み終えて初めて、この小説の良さがじんわり効いてくる。
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by bookswandervogel | 2009-07-04 23:36
2009年 07月 02日

「セレモニー黒真珠」

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個人的に注目している宮木あや子最新刊。
ダヴィンチに掲載時から人気の葬儀屋が舞台のラブコメディ。

ワカマツカオリさんのイラストも狙ってか、かなり若い読者に向けた軽いタッチのもの。
宮木作品特有の、出てくる女の子の身の上が演歌調なのは健在なのだが、テンポの軽い話の展開が 今までの作品が好きな私にとっては物足りない。


前作の『群青』も映画原作が前提にあったからか、たたたたたと読み易いけれど、もっとどろどろした 日本海がざば〜んとまなこに浮かぶ 宮木作品此処に在り、といった作品が読みたいです。

『花宵道中』『白蝶花』など読んで作者はもっと年配の方かと勝手に思っていましたが、宮木さんは自分より若く ビジュアルが姫(!)なのだと最近知ったのが衝撃的でした・・・。
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by bookswandervogel | 2009-07-02 23:58