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2009年 10月 31日

「キャンセルされた街の案内」

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エアメールを本にしたような作り。
装丁はさすがの新潮社装丁室。遊び心はあっても、真面目で丁寧な仕事。
旅エッセイかな?と思いきや、1998年から2008年の10年間に各紙に書いた短編を集めたものでした。

『最後の息子』が1997年だから、デビューから10年の間に少しづつ書いた短編は 後に出した小説のエッセンスを少しづつ含んでいるかのよう。
とくに長崎弁の小説はいいなぁ。著者本人が長崎出身であるから力の抜け加減がいいし、九州の言葉は何故か心をぎゅっと持ってかれる。

『24Pieces』という超短編が面白い。
24の短い段落からできているのだけれど物語の核をちゃんと確立していながら、雰囲気もたっぷり。
巧いなぁ・・と唸らせる。
自分の記憶の断片さえもシンクロしてきて、何かを思い出せそうなんだけど・・・。
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by bookswandervogel | 2009-10-31 01:54
2009年 10月 22日

「ばかもの」

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のっけから相当ばかもの。
大学に行かない大学生ヒデと ちょっとミステリアスな年上の額子の無邪気で奔放で自堕落な恋愛から話ははじまる。

そして別れの時が来て。
そこからヒデは加速度をつけて落ちて行く。どんどんどんどんスピードを上げて。
もういいじゃないか、とこちらが思うくらいだが ヒデは自分が底辺すれすれに居ることさえ気付かない。
『失い続ける。なにもかも失い続ける。得たものなんて何もない。』

数少ない人とのつながりの中で、本当にぎりぎりのところを見せたヒデに拒絶するひと なんとか手を差し伸べてくれるひと どちらも居るからリアル感が増す。
手を差し伸べてくれるひとが居て、あぁよかった助かったー と心底感じた。

最初からして、ヒデと額子は『運命の出会い』だと私はちっとも思わなかった。
『ありふれた出会い』が長い時間の経過を経て お互いが苦い経験もして築く関係もあるのだろう。
ヒデの人に対して素直になれない気持ち、自分を良く見せたいと思う葛藤が全編を通して痛くもあるが、正直過ぎて「ばかだなぁ」と思いながらも憎めない。
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by bookswandervogel | 2009-10-22 01:11
2009年 10月 20日

「9の扉」

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錚々たるミステリ作家が次々開けるトビラ。
リレー短編集で、一話終わるごとに 次の筆者へとキーワードが投げられる。

面白いのが投げられたキーワードで新しくお話を紡ぐだけでなく、キーワードを入れつつ、完全に前のお話を引き継いで書かれた作品もあって「これはアリなの??」と思いつつ ミステリ作家の余裕ある柔軟性と意外なチーム力を感じつつ、面白く読んだ。

こういう企画があると、普段読んだことのない作家の作品も気負わず読めて「こういうのを書くんだな」という入り口になるので、読書の広がりが持てるのでとてもいい。
一話がかなり掌編なのも、さらりと読めて楽しめる。
山椒は小粒できりりと辛い、といった感じ。

『あとがき』では今度は反対からバトンが廻る。
企画を本人達がとても楽しんでいて微笑ましい。
ミステリ、というジャンルの人は粋で遊び心のある人が多いのだなぁ。
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by bookswandervogel | 2009-10-20 00:07
2009年 10月 17日

「父を葬る」

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ガンと痴呆を患って、少しずつ少しずつ壊れていき、少しずつ少しずつ死に近づく父。
父を喪おうとしている家族。そして「私」。


山と渓谷ばかりの、九州は高千穂に100年続く家の「私」が見てきた家族の死と父の思い出。父は呆けているはずが 時折「私」を騙しているかのような言葉を発し、翻弄する。


「死ぬのは怖いもんか」
「ちいっとも」
「ほう、怖くない」
「おまえは、どうじゃ」
「おれは..怖いな」
「しっかりせんか。死んだら山に還るだけじゃ。なんが怖いもんか」

家族というものの血、故郷という離れたくとも離れられない土俗的なものが色濃く描かれる。
「私」の心の動きは とっくにいい歳した大人であるのに 繊細な傷つきやすい子供のようだ。
「私」の父への、他者への寄り添い方がどこまでも優しい。全く嫌みのないやさしさ。
それ故に出てくる人物が誰彼と愛しく思え、夫の死にやたらと執着する「私」の母は嫌悪感さえ覚えるが、最後では抱きしめたいくらい。
なんとも素晴らしい作品に出会った。
二上山、という山に遺灰は撒かれた。そこに咲くというアケボノツツジが 見たこともないが目に美しく浮かぶ。
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by bookswandervogel | 2009-10-17 01:42
2009年 10月 15日

「これでよろしくて?」

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待ってましたぁー!の川上弘美の新刊。
でしたが、少しばかりエッセイ寄り?(川上さんのエッセイはほとんど読んでないけど。)の小説。
『痛快ガールズトーク小説!』と謳っていましたが、あんまり私の好きなタイプではなかった....。

一人の若い主婦・菜月が不思議な会『これでよろしくて?同行会』にひょんなことから入会。
なかなか言葉に表せない感情や、人に聞くのもはばかられる日常の些細な疑問を議題に挙げ、老若女子が議論する不思議な会。

「話すほどのことじゃない、ことの方が、説明しやすい悲劇、よりも、むしろ後になってじわじわと効いてきちゃうのよね。」
「誰に、どのくらい、どのように、遠慮すればいいのか。反対に、誰に、どのくらい、どのように、遠慮なくふるまうべきなのか。」
会社勤めのあれこれ、家族というもののしがらみ、嫁姑問題・・・解りやすくグサッと刺さる傷ではなく、目に見えない いつのまにかできてしまった傷、ゆっくりゆっくり進んで行く病のようなものを抱えた菜月は、疑いながらも会に参加し続けるうちに 「だんだん だんだん わかってくる」のだ。

相変わらず主人公はぼんやりしているけれど、話す内容がちょっとガールズ..というよりちょっと所帯染みてる気がする。もっと夢のある、違う世界にふいっと連れて行ってくれる川上作品が読みたい。
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by bookswandervogel | 2009-10-15 01:00
2009年 10月 08日

「新参者」

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久しぶりに読んだ東野作品。
殺人事件が起きていながら、心温まる人情話。
ぎゅうっとするとこんな説明。「?」となると思うけれど。

人情と風情溢れる人形町に、刑事・加賀恭一郎が歩き回り 事件のカギを握る人物に刑事として接触しながらも、その人の心の内側にするりと入り込み、人々の間に温かな物語を創ってゆく。


小説の中には散文的でストーリーに奉仕するような文体と、ポエテッィクで雰囲気の漂う文体とあると思うのだけれど、著者の文体は前者であって  かつ人間ドラマが絡んだミステリーを描くのが真面目なのだが、今回は「人と人との微妙な交わり」に力を入れ過ぎたか、「殺人事件」の部分はひねりもなくかなり物足りない。

でも”加賀シリーズ、待ってました!”という方にはもってこいの作品です。(フォローになってないか。)
個人的には 最後の決めセリフが2時間ドラマのようで・・・  残念。
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by bookswandervogel | 2009-10-08 00:24
2009年 10月 03日

「ポケットの中のレワニワ」

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「レワニワってなに?」「内緒だからな。誰にも喋っちゃだめだぞ。」

レワニワは、主人公が小さい頃、父親が考え出した架空の生き物。
しょうもない理由で作り出されたその生き物が、いつのまにか彼の前に姿を現し、大人になった彼を翻弄する。

主人公は友達ゼロ、恋人無しのコールセンターに勤める派遣社員。
出てくる人物は誰しも社会的負荷を背負った、現実を生きる人々。
いわゆる低所得者が住む団地で一緒に育った幼なじみと再会し、その女性に恋をして自分の中に芽生えた「ある言葉」を伝えようともがく。

主人公はとにかく地味で、ヒロインは元難民。彼らが生きている世界はとことん現実的で華々しいことはひとつもない。
他の書評に書かれていて、ああ!と気付いたのだけれど、テーマや物語の進み方が『1Q84』にすごく似ている。まったく違っているのは売れ行き。(笑)
装丁はぼんやりしているけれど、かっこいい人が全く出て来ないのと、とにかくみんなあまりお金が無さそうなのと、”空気さなぎ”のファンタジックさとはほど遠い レワニワがちっとも可愛げがない感じが、私には『1Q84』よりしっくりきた。すとんと落ちた。

主人公の彼は、自分の中に芽生えた感情をなかなか彼女に伝えられない。かなりじれったい。
「ただの言葉なのに、それをただ声にすればすむだけなのに、結局言えない。むずかしいもんだ。」

言葉にできない何かに対して、じっくり黙って待つ。
沈黙する彼や彼女に対して彼らの周りの人がそうするように、いつのまにか優しい忍耐力がこちらにも備わっていた。
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by bookswandervogel | 2009-10-03 01:27