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2009年 11月 28日

「正弦曲線」

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ライチの一枝が箔押しされた箱に入った薄い本。
彼の柔らかくて軽やかな文体がよく似合っている。
堀江さんの本は装丁がうつくしく、本てこういう楽しみがあったんだーと毎度思い出させてくれる。
装丁のみならず、紙の質感や使われるフォント、行間などの配置の仕方が私にはとてもツボなのだ。

穏やかな口調で日常の断片を綴った連作散文集。
「あぁ、そういえばね」と思い出した本の一節や なんてこともないような話を、独特の視点で 選び抜いた言葉で表現している。
短い章のタイトルを挙げると、「昼のパジャマ」「センター・フライって、なんですか?」「ぼんやりとは聞けない」「存在のもろさ」「野帳友の会」・・・ なんともくすぐられる入り口ばかり。

さて今回は年上の知人に 読み終わったから、とこの本をプレゼントしていただきました。
女性に人気の作家だけれど、年上の男性が通勤電車で堀江さんの本を開いてたりしたら ぐっとくるなぁ。
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by bookswandervogel | 2009-11-28 01:25
2009年 11月 21日

「ガラスの街」

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ポール・オースターの小説第一作、柴田元幸による待望の新訳。

主人公は推理小説作家。妻と子供とは死別し、会うべき友も無く今は一人静かに暮らしている。そしてかかってくる真夜中の電話。それをきっかけに彼は不思議な事件へと巻き込まれていく・・・。

ミステリであり探偵小説でもあるが、なんともその枠内では表現しにくい作品。
訳者あとがきで柴田氏が『探偵小説が伝統的に満たしてきた条件が、この小説でも満たされるものと期待して読むなら、たしかにこれほど奇怪な「探偵小説」はない。事実はいっこうに明らかにならないし、「探偵」は何ひとつ解決しない。「探偵」の行動に表面的な意味での一貫性はなく、むしろどんどん理不尽になっていく。』と語っている。

けれども物語への期待は決して最後まで裏切られることはない。
始めの部分で独白として表現された彼自身の欲望が、読み終わったと同時に 望みが叶っている!と知った驚きはなんと言い表すべきか。
人の心の脆さ、きらびやかな都会の中の孤独、普通に生活する人々が均衡を失う危うさが、オースターが表現する主人公から、主人公が歩くうち描写するニューヨークの人々から見て取れて怖かった。
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by bookswandervogel | 2009-11-21 09:05
2009年 11月 15日

「製鉄天使」

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「赤朽葉家の伝説」のスピンオフ作品。
赤朽葉ほどの厚さを持った本ですが、あくまでもあの壮大なお話から派生されたもの と理解して読んだ方が良さそうです。

鉄を自在に操る主人公がレディース・製鉄天使の初代総長になり、地元鳥取のみならず 中国地方全土の制圧に乗り出す・・・と あらすじは至ってシンプル。

桜庭作品を読んできた人には期待もあって賛否両論あるかと思うけれど、初期作品や学園モノが好きなら楽しめると思う。
個人的には鳥取弁とどっぷり80年代的なセリフの数々、漫画でも表現しきれないんじゃ?と戸惑わせるフィクションぶりを屈託なく堪能しました。
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by bookswandervogel | 2009-11-15 23:25
2009年 11月 11日

「ほかならぬ人へ」

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ほかならぬ、かけがえのない人が誰にもひとりは居るだろう。
男女の分け目なく存在すると思うけれど、白石氏が描くのはやはり彼のライフワークでもある「恋愛の本質」を突き詰めた「愛するべき真の相手」だ。

主人公の明生となずなはお互いをほかならぬ存在と認め、お互いを欲し、周囲の反対を押し切ってまでして結婚する。けれど何故か二人の心は離れていってしまうのだ。
結婚した当初はそうなると思いもよらず、お互いを選んだことは間違っていなかったはずなのに...。
それぞれに、自分の真に愛する相手を「やはりこの人しか居ない!」と思い直すなずな。長い長い歩みよりの上で、相手を好きになったことをゆっくりと認めていく明生。

どちらの「真なる相手」の見つけ方も、その人を失ったり 失いかけたりした時に「ほかならぬ人だ」と気付いているのが悲しい。
その時の年齢や出会い タイミング、付き合った長さやその他の諸事情がうまくお互いの条件に見合った人と一緒になるケースがほとんどだろう。
けれどもほんとにその条件が合えばそれでいいの?そういうものをも乗り越えるような 自分でもどうしようもなくなるような想いを忘れてはいませんか?と著者は投げかける。

長く共に居る 居ないにかかわらず、ある日出会った人が本当に素敵なひとで 自分の中で無二の存在、かけがえのないほかならぬ人だと一度でも思ったことがあるならば、それはとても幸せなことではないだろうか。
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by bookswandervogel | 2009-11-11 01:17
2009年 11月 07日

「ジュールさんとの白い一日」

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エゴン・シーレの表紙絵に惹かれて手に取った。

冬のオランダ。周りの音がすうっと吸収されたような、雪の降った日の白い朝。アリスがいつものコーヒーの香りで目を覚ますと、朝食の用意を終えてソファに座ったジュールは静かに死んでいた。

夫の突然の死にアリスは動揺する。夫の死を素直に認めることができず、ふだんと変わりのない一日を送ろうとする。けれどジュールの体からは刻々と最後の生の香気が流れ出し、それにあと少ししたらジュールとチェスをするためにダビットが家にやって来る・・・。

ダビットは自閉症の青年。物質世界への関心や理解が健常者よりも強いこの青年が、物事をありのままに捉える行動特性によって 追想と感情の嵐に翻弄されるアリスに「ジュールさんは『外側』だけになった」ことをゆっくり認めさせる。ぎこちないが静かに、とても安定した存在で。

現実的には第三者をも慌ただしく介入してくるだろう別れの作業だが、大切な人との別れは本当はこうでありたいと願う 静かな静かなジュールさんとの白い一日。
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by bookswandervogel | 2009-11-07 15:35
2009年 11月 06日

「どうして書くの?」

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なぜ言葉で表現することを選んだのか?素朴な問いに”言葉使い”たちが議論する。

山崎ナオコーラさんが対談の中で「穂村さんのことを好きな人たちは、穂村さんてかわいいとか、だめな人だとか、恋の甘さがわかってるとか、そういう理由だけで好きなわけじゃなくて、言葉に対する真摯な態度に参ってるんだと思うんです」というくだりに深く共感。
穂村さんはなかなか言葉にできない、言葉という手段に置換えにくい感情を形にして、解り易く説明するという作業に長けている。
我々が普段ぼんやり考える、または瞬間的にはっとするような感覚 常に思っているけど自分でさえも整理がつかないような感情のもやもやを、屋台のわたあめのように棒にくるくる巻き付け形にして、はいっ!と手渡してくれる。

先日発売された『現代の歌人140』(新書館)では、短歌界で「穂村問題は今だ議論継続中なのだ」と書かれていた。
短歌以外のジャンルを超えた活動も注目され、『短歌の友人』という独特な歌論集を出版して「伊藤整文学賞」を短歌史上初!受賞し、穂村弘という歌人が現れたことで短歌というジャンルに新たなる光を当てたことは十分評価されているのだろう。
けれどそれほど言語表現において卓越した才能の持ち主だと認めてはいるものの、彼の詠む作品は今までの短歌界では俵万智を超える超個性的でエキセントリックなものなので、年長者にはきっと理解不可能なのだ。
物腰は柔らかそうに見えて、かなりのキレ者。コトバに反応するたび彼のメガネはキラリと光る。
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by bookswandervogel | 2009-11-06 01:32