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2010年 01月 30日

「随時見学可」

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ノンフィクションとフィクションの境界線上にたっているような。エッセイと小説の狭間にあるもの。
この小説の位置を決めるとしたら、とても難しいだろう。

短編集の冒頭の作品は、さらりとしたエッセイのように思わせる。
けれど読み進めるうちに、だんだん だんだん視界がぼやける感じ・・真っすぐに走ってたと思っていたレールが歪みはじめる・・。

どの短編も街や建物、空間を細やかに詳しく示していて、主語を使わず主人公を透明化した描き方は、読み手を「そこ」に立たせ体験させてくれる。
けれどなぜかどんなに読んでも、ちゃんとした空間 部屋なり建物なりが出来上がらない。だんだん だんだん物語の不思議な感覚を得てくると、輪郭のはっきりしない空間さえも楽しく思えてくるのだ。
最後まで読んでみて、この人の作品はミステリーに限りなく近い気がした。

大竹さんは「カタリココ」という小説の朗読会、作者が自身の作品を読むというイベントを開催している。
詩の朗読会はあっても、小説という分野では珍しい。
しかしドイツでは作家は朗読会で食べていけるくらい頻繁にあるそう。「読書」という文化がまた広がるようなイベントにいつか参加してみたい。
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by bookswandervogel | 2010-01-30 18:33
2010年 01月 23日

「天地明察」

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江戸時代は四代将軍家綱の御代。
主人公は、囲碁をもって幕府に仕える碁打ちの名門・安井家に生まれた渋川春海。
家業の碁所に飽き、変わりに算術をこよなく愛する彼に、時の老中酒井忠清より日本独自の太陰暦を作り、800年ぶりに改暦をせよという大きな使命が下された。
以後20数年に渡る春海の長い苦闘が始まる・・。

春海はどちらかというと頼りなくぱっとしない、天才とかヒーローとかとは縁遠い人物。
けれど持ち前の探究心と 何よりも彼の素直さ、誠実さが魅力となり、周囲の多様な分野の人々の助けを得て壮大なプロジェクトを成し遂げる。
しかし彼の生涯は挫折続きだ。
話の結果を知っていても、何度も「あぁ・・もうダメだ・・。」と読んでるこちらが先に諦めてしまうほど。
退屈な勝負に身を委ねず、己にしかなせない行いを選んだ春海はひたむきに そして情熱を持って突き進む。何かを成し得るひとはこんなにも静かで、熱いのだなぁと胸を打たれた。

『熱くならない魂を持つ人はかわいそうだ』という長いタイトルのついた歌を思い出した。
熱くなる魂を持つ静かな人にたくさん会いたい、と思った。
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by bookswandervogel | 2010-01-23 23:24
2010年 01月 16日

「スコーレNo.4」

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少女から次第に大人になってゆく成長を綴った物語。スコーレとはスクールの語源となったギリシャ語で、4つに分かれた章が 1、2、3..と段階を踏んで進んでゆく。

主人公の麻子はとても地味な女の子。自由奔放で器量良しで綺麗な妹に比べて「私には何もない」と傷み悩みつつも、誠実に生きようと物事に体当たりに向き合う。

派手なことひとつもない麻子の日常(No.3の就職一年目の話は特にリアルに地味!)だけれど、その時その瞬間の麻子の心の動きや揺れを丁寧に描いていて瑞々しく、飽きさせない。
どんな人にも物語はあり、何かに秀でてなくとも出会いもロマンチックもあり、端っこに位置するように見える存在でも実は誰もが世界の中心に居るのだと思い出させてくれる一冊。
全国の地味系女子に捧ぐ!
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by bookswandervogel | 2010-01-16 01:22
2010年 01月 08日

「後悔と真実の色」

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若い女性を狙った連続殺人事件が起きる。遺体からは人さし指が切り取られていた。犯人は「指蒐集(しゅうしゅう)家」と呼ばれネットでの殺人予告、犯行時の実況中継などで警察を翻弄し、足がかりさえ掴めない捜査は困難を極めていた。ー

犯人逮捕のため全力を尽くして向かっているようで、警察内部での管轄の駆け引きや、見えない足の引っ張り合い、手柄を立てるための思索など 私欲や打算が絡んだ、犯人vs警察だけではない人間臭い内部の描写が面白い。

章ごとに一人称が変わり、特に主人公の捜査一課の刑事・西條に対するそれぞれの目線はラストに向かうにつれ意味を増して来る。
エリート刑事・西條のまっすぐ過ぎる熱い性格、スマートな容姿、切れる頭脳をもってすれば最後までかっこよく描かれたりするものだが、ある出来事からの落ちぶれぶりが容赦なく、いったいどこまで行ってしまうのか?と殺人事件とは別の部分でハラハラした。

人の弱さと汚さと狡さが混じり合いながらも、「これだけは守りたい」という人としての尊厳を失わずにいる。そうだ 両方あるのが人間だよねと正統派ではない、けれど熱い刑事たちがここに居ます。
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by bookswandervogel | 2010-01-08 00:10