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2010年 02月 27日

「初夜」

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1962年イギリス。結婚式を終えたばかりの二人は初めて訪れる「そのとき」を前に緊張しながら食事をしている。
出会い、惹かれ、正しい確かな愛を育んできたはずなのに たった一日のこの後の数時間が二人の間に決定的な溝をつくってしまう。

彼らのぎこちなさを半ば滑稽に語りながら、一方では彼らのこれまでの出会いからの美しい日々を振り返る。
そのゆったりとした幸せに溢れる時間の描写と、興奮と歓喜 緊張と恐怖を緻密に描いたその夜の描写はあまりにも対照的で、愛し合う彼らに暗雲が迫って来る感じに狼狽えてしまう。

時代背景もあったのだろう。
ビートルズのデビューはこのすぐあと。ジミヘンは1966年に登場し、愛と平和を謳ったウッドストックは1969年に開催された。彼らの居た時代はまだまだ性について語られるには早過ぎたのだ。
その後の二人の行方も後半で語られるが、決して不幸な人生は送ってはいない。
けれども彼や彼女が 疑いようもなく愛し合っていた頃の互いの姿を、ちらりとでも思い出すとき、あったかも知れない未来を想わざるを得ない。
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by bookswandervogel | 2010-02-27 00:55
2010年 02月 23日

「愛は苦手」

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アラフォーってなんだ?
どこかの誰かが作ったコトバが、当たり前の顔をして世間に馴染んでいるのを目の当たりにすると、ぎょっとしてしまう。アラサー アラフォーもまさか浸透しないだろうと高をくくっていたら、電車の中の他人の会話にすんなり使われていてびっくりした。
流行り言葉を使うことに臆してしまう自分としては、世間は寛大だなと思う。

アラフォーの山本幸久が書いたアラフォー小説。
けれど出てくるのは女性ばかりなので、よくもこんなに女の人の思考で書けるなぁと感心してしまう。

『ほんとにもうただの、これからさき。それでもあたしは生きていかねばならない』
夢を追うほど未来は無くて、将来の...なんて言葉はもう使えない。
40を超えて、手に入れたものや諦めたこと。みんな問題ない人なんて一人も居なくて、なにかモヤモヤしたものを胸に抱えながらも、日常の流れに乗って 些細な事柄に一喜一憂している。
そんなアラフォー女性が次々でてきて周りに流されまいとしながら流される。
自分で生活を築いてきて、幾度となく恋愛の波を乗り越えた彼女達が、ふっと漏らす「う〜ん・・やっぱり愛は苦手。」という声が聞こえてきそうだ。
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by bookswandervogel | 2010-02-23 00:22
2010年 02月 20日

新潮2月号

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しまおまほ著 「奄美のマンマーの家で」を読んだ。
島尾家というのは祖父・島尾敏雄は『死の棘』を書いた作家、両親は共に写真家、孫のしまおまほは漫画家という興味深い家族だ。そして家族をモチーフにした作品がお互いに多いことから、結びつきや執着が他よりも強いようにも見える。

奄美にひとり住む祖母・ミホが死んだ。『死の棘』に登場する妻のモデルになった人。
夫・敏雄が亡くなったあとも喪服を着続けるなど、確かにエキセントリックな部分が多く見られるけれども、孫から祖母に向けられる視線はどこまでもあたたかい。

祖母の様子を見に帰省した際、何故か家中の鍵がかけられていて、鍵を壊してまで入った寝室に倒れている祖母を孫は発見する。
「右手をまっすぐ伸ばして、おろした長く黒い髪が綺麗に寝間着や腕や、畳の上にウェーブを描いて這っていた。・・・・ ただ、白雪姫のような、きれいな姿だと見た瞬間に思った。」

物がとにかく捨てられない人で、家を片付ける際に飼っていたインコの羽が丁寧にティッシュに包まれて出て来たり、ある箱の上にはしっかり『捨てるな』と書かれてあったり。その膨大な物の量に辟易しながらも、2年かけても片付けに終わりが見えなくても、祖母の遺した品々を手に取り家族は笑う。

実際に付き合うのは家族であってもとてつもなく面倒な人であったろうと想像するけれど、孫によって書かれた彼女はとてもチャーミングで愛おしく、数々のエピソードに笑いながらも 最後には彼女がこの世から居なくなった事実に空しさを感じた。
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by bookswandervogel | 2010-02-20 23:38
2010年 02月 19日

「めくらやなぎと眠る女」

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『象の消滅』に続く、ニューヨークで編集された英語版と同じ構成の自選短篇集。
前回はハヤカワポケットミステリのようなレモンイエローだったが、今回はスモーキーピンク。
装丁の格好良さ、値段の安さで群を抜いてるなぁと思う。

イントロダクションで『長篇小説を書くことは「挑戦」であり、短篇小説を書くことは「喜び」である』と語っているように、読むこちら側も長篇に挑む時とは全然別で、村上さんに「どうぞ楽しんでいってくださいねー」と扉を開かれているような気軽さがこの短篇集にはある。

外国の読者に向けて編集し直されたもので、もとは日本人である村上さんが日本語で書いたものなのだけれど、この人の作品はどこか逆輸入された感じ 翻訳モノを読んでいるような感じになるのは私だけではないだろう。
「バースデイ・ガール」は六本木で働く日本人の女の子の話だけれど、何度読んでもニューヨークか何処かの街で働く目の色の違う女の子のイメージが浮かぶし、本邦初出で話題の「蟹」で出てくる、

「なるほど」と彼は言った。
「人生っていうのはけっこう恐ろしいものなんだ。」
「そのとおり」彼女は言った。そして悪戯っぽく人差し指を立てた。
「人生はけっこう恐ろしいものなの。あなたが考えているよりもね。」

なんて会話は日本人はしない。
こんな会話をしている人が居たら相当いけ好かないけれど、村上作品を読んでいるとこの微妙にズレてる感じが心地良い癖になってくる。
「1Q84」で初めて村上春樹を読んだ、という人に勧めたい さくさく読み楽しめる一冊。
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by bookswandervogel | 2010-02-19 23:55
2010年 02月 09日

「青い野を歩く」

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アイルランドの作家ということ、またカバー写真が私がイメージするアイルランドの風景にぴたりと合ったので、読んでみた。

アイルランドの田舎町。
見渡す山は低く、一面に草原が広がり 時おり岩肌が露になる斜面には羊や牛が横切る。
曇った空には乾いた風が吹付けて、雲は流れ 二度と同じ表情は見せない。

表題作はそんな景色を背景に、ある神父の孤独を描く。
その日神父が結婚式を執り行った花嫁は、過去にひそかに愛し合った女性だった。
淡々と役柄をまっとうしようとする彼の胸の中には、あの頃の彼女とのすばらしかった日々がありありと温かな色をもって映し出され、また独りの 神に仕える身としてのこれからの日々が目の前にモノクロームに広がっている。

八篇の短編にはそれぞれ哀しい過去を持った人物が描かれている。言葉少なく生きる彼らがこれから歩む道は決して明るくない。が、日々は続いていくのだ。哀しみは無くならない。ハッピーエンドも嘘だろう。けれどその先を受けとめる力強さが彼らにはある。お話は違えど、その大きな主題がそれぞれを緩やかにつなげている。

特に表題作は、体験していないのにその風景が忘れられないものになるほど、すばらしい。
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by bookswandervogel | 2010-02-09 00:47
2010年 02月 06日

「私の家では何も起こらない」

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ホラーなんて読むんじゃなかった・・・。
怪談とかホラー映画とかお化け屋敷とか、そういうもの全般苦手で普段は近寄りもしないのに、おとぎ話が始まりそうな装丁と 恩田陸なら大丈夫かも・・と思ったのが浅はかだった。

寝る時に暗闇が気になる・・という怖さではないとしても、読んでる間 禍々しさがつきまとって、そのまま影響を受けまくった夢を連続で見て、どんよりした朝を何度迎えたことか。
ホラー慣れしていないから、刺激が強かった。

丘の上に建つ古いお屋敷。そこを舞台に数珠つなぎで雰囲気たっぷりの幽霊が次々現れる。
どうも最初からイメージがヒッチコックの『サイコ』に出てくるお屋敷で、夢でも何度もそこの前に立たされた。もう行きたくない。
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by bookswandervogel | 2010-02-06 01:31