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2010年 03月 29日

「ハーモニー」

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舞台は21世紀後半。
大災禍と呼ばれる世界的な混乱を経て、人々は健康を第一とする価値観による社会、医療経済を核とした福祉厚生社会を作り上げた。
健康状態を主とする個人の信用に関わる様々な情報をパブリックに晒すことがモラルとされる生命社会。誰とも調和(ハーモニー)を保って生きるユートピア。
そんな中、公共物としての身体 リソース意識への抵抗として、自分達が無価値であることを証明するために3人の少女は餓死を選択する....。

2009年3月に34歳の若さで急逝した伊藤計劃。
病床で書き上げたというこの作品で、一作目の『虐殺器官』に続き"SFが読みたい!2009”の第一位、日本SF大賞を異例の死後受賞するなど、ドラマティックな背景に惹かれて読んだのは確か。

けれどそんな背景がなくともとても面白く、SFの分野に疎い私もたいへん惹き込まれた。
人が人として生きている意味は何なのか?「わたしがわたしである」尊厳はいったいどこにある?
人の命は「脳」にあるのか「心臓」にあるのかという何年か前にあった論議を思い出した。

個人的には最後のエピソードは無いほうが余韻に浸れていいなぁと思った。
語られてない部分を想像して愉しみたい。
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by bookswandervogel | 2010-03-29 23:50
2010年 03月 24日

「ギンイロノウタ」

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『私が”化け物”だとして、それはある日突然そうなったのか、少しずつ変わっていったというならその変化はいつ、どのように始まったのか・・・』
こうして始まる表題作は、歪んだ家庭環境で育つ自分の殻にこもりがちな少女の幼少期から思春期までを追い「誰でもいいから殺してみたい」と自分の中に湧き出る衝動を抑えられなくなるまでを刻々と描いたもの。

世間で起きた強盗殺人の犯人を”化け物”扱いする他人の会話を聞いて、自分は根本的にそれらの犯人とは違っている、凡庸な殺人者とは違うのだ、と自分を特別な存在と位置づける感覚は、過去にあった事件の犯行に至った理由を彷彿とさせる。

構成はシンプルで特に技巧的な感じを狙ったり捻ったりはないのだけれど、他者との共感とか理解とかを必要としていない そんなものを超えてしまった勢いがあり、不気味な狂気の迫力に押されて一気に読ませる。
まだ一冊しか読んでいないが、好ましくないけれど気に触る感じがこの作家の妙な魅力。
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by bookswandervogel | 2010-03-24 23:56
2010年 03月 18日

「坂道の向こうにある海」

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今の彼氏の前の彼氏が、今の彼氏の前の彼女とつきあっていて・・・と関係を語るとごちゃごちゃしていて、4角関係?なんて何だかドロドロしていそうな設定だけれど、著者としては男女関係の嫌なもつれを書きたい訳ではない(みたい)ので、「ま、そんなこともあるよね?」的にさらりとまとめている。

4人が共に介護職に真摯に向き合って働いていること、舞台が小田原で海が近くにある街特有の開けた感じがするのも、全体にさわやかな印象を創り出している。

それぞれがふとした場面で前の相手のことを思い出したり、現在の恋人に不甲斐なさを感じたり、自分から恋人を奪った相手に恨みではなく好感を感じていたり、どうしようもなく愛しいのに上手く態度に現せなかったり、目の前の恋人に満足しながらも次の恋愛を考えていたり。
傍から見たら平和な恋人同士に見えても、その中身は複雑で 誰にも正しさや誤りを解けないものだなぁと感じた。

4人がそれぞれ一人称の語り手となっているので、うんうん そうだよね・・と穏やかに見守る気持ちで読みました。
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by bookswandervogel | 2010-03-18 00:31
2010年 03月 15日

「橋」

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日本海に面した北国で、高度成長期に青春時代を過ごした二人の女性。時代の狂乱の中、なんとかもがきつつ自分の立ち位置を確保してきたその二人が母親となり、今度はその娘達が、バブルが崩壊し国全体が停滞する時代に生きることになる。
そして必然か偶然か 二人の娘が起こした事件とは...。

その時代背景や、地方都市の成長と衰退を淡々と語る文章はどこかドキュメンタリーのようだ。作者の文章には誰への批判もなく、起こった出来事に嘆くこともない。
読んでるこちらは、少しずつずれていく 転落していく展開に途方に暮れる。
なぜそんなふうになってしまうのか?どうしてうまくいかないのか?
時代や社会の犠牲者、というのは浅はかだ。けれども作者が描いたどんよりした空気を孕んだ倦怠感が読んでいる間、ずっとつきまとう。
誰も彼も そのどんよりから抜け出せない。

橋にひざまずき、川に向かって娘の名を呼ぶ母の姿だけが、強烈に胸に残った。
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by bookswandervogel | 2010-03-15 00:48
2010年 03月 06日

「自分なくしの旅」

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映画になった「アイデン&ティティ」と「色即じぇねれいしょん」の間の浪人時代を描いた自伝的小説。
『自分なくし』はいわば『自分探し』の反対語。
本当の自分が何処かにあると思うから「その本当の自分は、きっと今より素晴らしいはずだ」と思い込む。「どこかに自分のふさわしい場所があるはずだ」とナルシスティックな考えで自分を特別視せずに、何でもない自分を肯定して、自分ができないことを消していけば おのずとやるべきことは決まって来るという、みうらさんの持論。

けれどそれを言っているのは52歳になってかっこ良くなったみうらさんで、この小説に出てくるのは煩悩だらけの恥ずかしいくらいかっこ悪い19歳のみうら青年。

もう読んでてとにかく恥ずかしい。
彼のすることに、血の繋がった親戚のようにいちいち恥ずかしく、情けなくなる。
故郷を離れて遠くなっていく友達、新しくできた彼女、重くのしかかる両親・・・まぁ気持ちは解らなくはないけどね・・と苦笑いしながら読み進めた。

「甘やかされていたなんて一度も思ったことがないのは、人生に対し何も疑問を持たないよう育ててくれた親のお陰だ。正しいことはいつだってここにあるんだと、安心させてくれた親の愛だ。」というセリフにほろっともさせられる。

お話の間に挟まれた自作のポエム(笑)がまたベタで恥ずかしくて、とても良い。
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by bookswandervogel | 2010-03-06 01:17