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2010年 05月 30日

「慟哭」

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普段ほとんど(というか まったく)独り言を言わない私でも、本当にびっくりした時には声を発するんだなぁと、自分の生態を改めて知らされた気がします。

連続する幼女誘拐事件の捜査は行きづまり、捜査一課長は世論と警察内部の批判を一身に受ける。若くしてキャリア課長である彼の私生活の方に、世間やマスコミは徐々に関心をよせていく。
一方で、ある悲しみを背負い、カルト教団にのめり込んでゆく一人の男。二つのストーリーが平行して語られてゆくその先にいったいどんな結末が・・・?

警察内部の縦社会や 新興宗教の緻密な描写が、客観的かつ冷徹な語り口で進められていく。その圧倒的な筆力に引き寄せられ、淡々と悠然と構えて読んでいたつもりがぐいぐいと惹き込まれ、二人の男 それぞれの場面で異なった感情を揺さぶられていた。

重く硬質な文章で人間の脆くて弱い部分を描いた、ミステリや本格といったジャンルを超えて文学として非常に読ませる作品。
これが弱冠25歳で書いたデビュー作とは!非凡な才能の持ち主に、またも「ええっ!?」と声を上げずにいられない。
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by bookswandervogel | 2010-05-30 15:40
2010年 05月 22日

「悲しみを聴く石」

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白水社EXLIBRIS(エクス・リブリス)シリーズ。
まだ出来たてのこのシリーズは、まず装丁が素敵で魅力的。
世界文学というのはどこから読んでいいものか..?と迷う人に気軽に道案内をしてくれます。
あとがきを読むと、多くの人に読んでもらいたい!という翻訳者のひしひしとした熱さも感じる。

『アフガニスタンのどこか。または別のどこかで』
戦場から植物状態となって戻った男が横たわる部屋で、妻はコーランの祈りを唱えている。
やがて一向に目を覚まさない夫に向かって、妻は誰にも話した事のない秘密を語り始める。

部屋の外では内戦が続き、銃声が響き渡っている。
外の様子とは反対の静かな密室で妻は、ペルシア神話に伝えられる”忍耐の石”に夫を置換え、自由へと向かって告白を続けるうち、虐げられ、耐えに耐えてきた人格がだんだんと崩れてゆく。

人には言えない苦しみや悲しみを打ち明けると、その石はそれをじっと聞き、言葉や秘密を吸い取り、ある日、粉々に打ち砕ける。その瞬間、人は苦しみから解放されるという。

果たして石は砕けたのか?
砕け散ったのは夫なのか、妻の人格なのか、それとも長く苦しい抑圧から解放された妻の苦しみだったのか。
自由への扉は開かれたと思いたい。それにしても衝撃のラスト。
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by bookswandervogel | 2010-05-22 01:41
2010年 05月 21日

「1Q84  BOOK3」

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BOOK1、2を読み終えて、さてこれはこれで終わったのだろうか?と誰もがたぶん思ったことでしょう。
発売後すぐから「どうやら3巻目もあるらしい」と噂されていたので、果たして私はこの続きが読みたいかな?と考えてみたけれど、一番気に入りの主人公が居なくなったことで『青豆の居ない世界なんて。』と半分興味を無くしていた。

けれどなんとー!
BOOK3で青豆は復活していた。復活、というより何とも無かった。
そして1、2で僅かに登場した牛河という男が3ではとても重要な役割を持って登場する。
前回ではその容貌と気味の悪い存在から出て来る度に嫌悪感を覚えたが、3では相変わらず気持ち悪いのだけど何とも魅力的に描かれ、牛河の登場場面をいちばん面白く読んだ。

まだまだ読んでる方が多いと思うので印象づけはよくないけれど、個人的にはミステリーとして捉えて読んでいたので、少しSF的恋愛小説になってしまっていたのが残念。
でもひとつの小説で読者をこんなにも惹き付けて読ませて、読んだ後こんなにもそれぞれの個人的見解をいろいろ語らせて、またその小説の行方にこんなにも憶測が飛び交う、そんな書き手はなかなか居るもんじゃあないな と村上春樹の凄さをまた再確認した。
彼の本当に真剣な作り話をいつまでもわくわく読みたい。
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by bookswandervogel | 2010-05-21 01:12
2010年 05月 08日

「叫びと祈り」

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冒頭の『砂漠を走る船の道』という短編で『ミステリーズ!新人賞』を取った梓崎優のデビュー作。最近活躍する作家さんに『経済学部卒』が多いと思ってるのは私だけでしょうか?謎です。

世界を股に掛けるジャーナリストの斉木という男が赴いた先で遭遇する不可解な事件。
ある話は鬱蒼とした南米のジャングルの中、またある話は霧にけぶるロシアの静謐な教会で...。

謎の提示とその解明は、その土地ならではの価値観や文化を絡ませたものなので、斉木と同じ目線(日本人)の私たちはその事件が起きたそもそもの理由から先入観を覆され、「??!」と焦ってかなりなページを逆戻ることになる。

ワールドワイドな設定ながら、説明的な掴みもなく 大げさな展開も見られない。
探偵でもなく刑事でもない「斉木」という男の立ち位置がとても控えめで 事件を執拗に追うような”熱さ”が無い分、さらりと上手くまとめあげているように思う。
ミステリ好きでロマンティック好きには是非おすすめの作品。
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by bookswandervogel | 2010-05-08 23:44
2010年 05月 01日

「真夜中の金魚」

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これぞエンターテインメント!という小説。面白かったぁ。
北九州の夜の街 ネオン輝く世界に生きる主人公。
あるバーの雇われチーフを担う彼が、社長の命令で「その筋のお客さん」からツケの回収を迫るところから事件は始まる・・。
(←この場面。『ごちゃごちゃ言わんと、はよ払わんかいっ!』
と、言ってるかどうかは読んでのお楽しみ。)

口で売る割に強くない彼が立ち向かう喧嘩のシーンでは、本を持つ手にくくく..と力が入りながらも、寸でのところで切り抜けると よぉし!!と快哉を叫びつつガッツポーズをつくってしまう。
主人公の彼は堅気の商売ではないが意外と真面目な働きぶりだし、ろくでなしながらも心根まで腐っていない。ダークな世界を描きつつも爽やかな印象をこの小説は持っている。

水商売、競馬、テキヤ、パチンコ...知らない世界のうんちくが、場面場面にうまく散りばめられていて へええ〜と興味深い。ピンドン、アゲチカ、ケツシオ...業界用語を知ったかぶりして使ってみたくなる。(使う場面はかなり無さそうだけど。)
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by bookswandervogel | 2010-05-01 23:04