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2010年 06月 28日

「神様のカルテ」

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本屋大賞2010で第2位となった本作。
映画化が決定し、書店ではまた売り上げを伸ばしつつあります。

主人公は内科医勤務5年目の栗原一止。若いのに漱石かぶれの話し方がちょっと変。新婚だけれど、相手を妻でもなく嫁でもなく「細君」と呼ぶ。
その細君も変わっていて、華奢で儚げな少女のような風貌ながら、ものすごく重い荷物を軽々背負って世界を飛び回る山岳写真家。

一止の勤務先は「24時間365日対応」を掲げ救急医療まで行う地域の基幹病院。
そこでは当直時に「内科医」の札をくるっとまわして「救急医」となり、外科でも内科でも耳鼻科でも皮膚科でも、ひとりの「救急医」が診療を行う。患者は深夜にも途切れず、ゆえに睡眠もろくに取れない。

実際に信州で現役の医師を勤める夏川さんは、医療問題を提起したかったのではなく、描きたかったのが医療の現場で、表現したかったのは小説という分野だったのだろう。
こんな人は居ないだろうー と思ってしまうほどの濃いキャラの登場人物が、地方の医療現場の慢性的な医師不足、大学での高度医療と地域医療の差や終末期医療の問題を抱えるという、どフィクションの中の現実世界の切実な迫真性のバランスが絶妙だった。
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by bookswandervogel | 2010-06-28 00:33
2010年 06月 26日

「フリン」

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椰月さんは『体育座りで、空を見上げて』『しずかな日々』など児童文学の分野で思春期特有のモヤモヤを、海面に光るキラキラのように描き、『みきわめ検定』『枝付き干し葡萄とワイングラス』では男と女の逃れようもない性をドロドロドローッと描く。
白と黒 両刀使いで「今度はどっち?」と毎度楽しみな作家さんである。

そして今回はブラックな方の椰月さん。
友人から「思わず破り捨てたくなる小説!」と聞いていたので身構えたけれど、読んでみると、嗚呼・・人はいくつになっても好きになったら淋しがりでどうしようもない・・・と弱さを肯定する側に立っていた。

テーマがテーマだけに背筋がぞわっとする話もあるけれど、置かれてる状況、環境を差し引いたら とても純粋な恋愛小説ともとれる。恋をした人の相手に対する視線などが、とても初々しく可愛く描かれていたりする。
同じマンションに住む登場人物たちが、お互い会ったら普通に「こんにちはー。」と挨拶する姿が目に浮かぶ。何もない平穏な日々を暮らしているようでいて、それぞれに抱える問題、解決の仕方は違ってくる。
個々の人生の複雑さ、面白さを魅せてくれる作品。
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by bookswandervogel | 2010-06-26 00:57
2010年 06月 20日

「六つの星星」

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川上未映子が精神分析、生物学、文学、哲学の師と語り合う。
語り合うテーマはつまるところ、『私とは何であるか』という永遠の問い。

思えば小さい頃、眠る時に目を閉じて このまま目を覚ましても暗闇だったらどうしようとか、今生きてるこの世が、風船が割れるみたいに テレビを消した時みたいに、ぱちん!と音を立てて突然終わるんじゃないかとか、三面鏡を覗くと見える、ずっと続く私の顔のいちばん向こうの私は、違う世界違う次元で生きてる私なんじゃないかとか、考え出したら止まらなくて、言葉にはなりえない不可思議さや不安でいっぱいだった。

確かに存在している自分に得体の知れない恐怖を感じるのは、ある時期の子供につきものなのだろう。
川上さんはまるで、頭の中はその時の子供のまま大きくなった大人の様だ。子供の時と違うのは、武器として言葉や知識を豊富に携えているところ。

「雪は溶け、水になった。それはわかる。しかし雪の白さはどこへ行ってしまったのだろう」から始まるあとがきは、それぞれの対談をぎゅっと束ねていてあたたかく、この本を作った意図が現れていて、とてもいい終わり方だった。
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by bookswandervogel | 2010-06-20 23:44
2010年 06月 13日

「オー!ファーザー」

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ごく普通の高校生活を送る由紀夫くんには、両親が合わせて5人居る。どういう配分かというと、母親1人に父親が4人。
普通だったらありえない話だけれど、家庭は円満。母親と父親たちの関係は良好。
父親たちは競うようにひとり息子を愛し、息子は個性豊かな父親それぞれを信頼し、使い分け、しかもぐれずに成績優秀スポーツ万能。
けれどそんな主役が前に出て来る感じはなく、自我が芽生えて来る前の 周りの大人に影響を受けまくり 振り回されまくりの微妙な年頃のふやけた高校生として描かれていて微笑ましい。

著者独特の軽妙な台詞回しといい、らしいキャラクターなどエンタメ性が強く出た彼らしい作品。だからこそ大小様々な事件に巻き込まれて、それが無事収束し...というお決まりな展開ではない話が読みたかった。事件が起きずとも、この強烈な4人の父親の個々の話を向田邦子的なファミリードラマとして読んでみたかった。

『人間というのは、自分が信じたいと思うものを信じるんだ』
副題(?)に a familyと書かれたこの本の家族は、嘘みたいな環境でも 信じてる人を信じたくてひとつ屋根の下に暮らしているんだろう。
ピンチに遭うたびに、由紀夫くんはそのピンチに即した父親たちの助言や格言を律儀に思い出す。
こんないい子はいったいどんな大人になるのだろう。由紀夫くんの将来が楽しみだ。
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by bookswandervogel | 2010-06-13 00:55
2010年 06月 10日

「光媒の花」

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こちらも山本周五郎賞を獲った道尾秀介の作品。
読み比べ・・・ではないけれど読んでみました。

6話からなる連作群像劇。
前半の3話があまりにも暗く、物哀しさというよりも淀んだ暗さを含んでいて なかなかその暗さから立ち直れずに最後までひきずってしまった。そして「冬の蝶」に出てくる「サチ」はなぜかどうしても川上未映子の「ヘヴン」のコジマをイメージしてしまう。

後半の3話は、前半の3話からつながっていながらもかすかに光が差すような作品。ミステリの要素は無く、どちらかというと文芸的なお話。
暗くてもミステリの色が濃い前半の方が魅力的、後半は少し話の設定に違和感を感じて入り込めなかった。

全体的に繊細な文章できれいな印象だけれど、もっと読後感がざらりとしたものの方が個人的には好みだなぁ。
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by bookswandervogel | 2010-06-10 01:11
2010年 06月 07日

「修羅の終わり」

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公安刑事の久我、悪徳刑事の鷲尾、記憶を無くした「僕」。この3人の物語が同時進行する、『慟哭』からまたもう一歩 枠を広げた本格小説。

まずトリックや謎解き、伏線うんぬんよりも、それぞれの心理描写が面白く800ページをあっという間に読んだ。刑事それぞれの内にある「正しさ」がだんだんと崩れて行き、記憶を無くしていた「僕」の真っ白な世界にだんだんと色がつき始め、3人が深いところにうごめく『蟲』に侵され修羅へと導かれる様は 読む側もその沼にずぶずぶ入り込んでしまい、ページを繰る手が止まらなくなる。

不快感や嫌悪感を覚えるシーンは多々あるけれど、小説世界で残虐性 バイオレンスの世界が描かれるのは良くないことだとは思わない。
誰にでも『魔』の部分は存在するし、もしくはこの小説に出てくる『蟲』が存在するかも知れない。けれど『魔』の部分を小説で読むことによってカタルシスを喚起したり、それらを安全に解放できることもあると思うからだ。

謎解きうんぬん...と書いたけれど、実際そんなことはない!予想を遥かに超えたトリックにまたも唸ってしまった。最後まで読んで「?」と思っていた部分を再読してようやく解読でき、あぁこんなところで裏切られていた..と呆然とするばかり。

先日、山本周五郎賞受賞(「後悔と真実の色」)受賞発表直後の貫井徳郎さんに幸運にもお会いする事ができました。こんなにも禍々しい小説を書いてる作家さんていったい...?と思っていたら、とても実直で明るい方でまたも心地良い裏切りを受けました。
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by bookswandervogel | 2010-06-07 00:48
2010年 06月 01日

「崩れる  結婚にまつわる八つの風景」

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自註解説で書いているように、八つの短篇はひとつとして同じパターンのものはなく、かなりバラエティに富んだ短編集になっている。

例えば表題作の「崩れる」は主人公の主婦の閉塞感がじりじり描かれ、ラストでは圧倒されるスピード感。「怯える」は元彼女から久しぶりに連絡があったことから、ある男の生活が少しずつズレていく。「憑かれる」はまた趣向が変わって、今 目の前に居る人は果たして実在の・・それともあの世の・・?と話が二転三転して面白い。

普段の日常のもう一歩先、手が届きそうな距離の話がとてもリアリティがあり、自分の周りで起きているかの様で寒気がした。

パート主婦、妊婦、若い母親、OLと主人公は女性が多く、それも男性作家が書いたと思えないほど女性の心理があからさまに描かれていて「こんなにも知られている!」と驚く反面、登場する女性に変なヴェールが被されてないことをうれしくも思った。
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by bookswandervogel | 2010-06-01 23:58