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2010年 07月 30日

「みなさん、さようなら」

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小学校無遅刻無欠席の悟が、卒業と共に「中学へは行かない」と宣言するところから物語は始まる。
以来彼は、彼の住む団地から一歩も出ない、という生活を選択する。
団地内のコミュニティセンターで勉強をし、体を鍛え、団地内に住む友達と遊び、恋をして...。

なにこの設定?こんな物語は読んだことない!と冒頭からぐいぐいと引き込まれた。
奇抜な設定ながら、主人公・悟の精神は明るく健全で、とにかくアホでおバカな中学生がどのようにしてこの小さな世界で成長して行くのか..と話の展開にわくわくしながら読ませる。

閉じた世界の中だけで生きようとする悟は、思春期の普通の男の子と同様、生意気を言い 世間を斜に見つつも外へは出て行けない。そんな悟を団地に居る人々は温かく見守る..のではなく、気味の悪い、奇異な存在として彼を扱う。世間一般の社会的な目線で冷静に悟をとらえているところが読み手に共感を与えている。

物語の中盤、悟くんもういい加減外に出たらどうだと思っていたら、衝撃の事実が明かされる。
思いがけない展開にショックを受けるけれど、また違う角度から物語を見直すことになり、物語に深みと重みがぐっと増す。

とにかく面白い!これは世界初の団地青春小説!
ベストセラー作家ばかりじゃなくて、こういう作家の作品を読者にもっと読ませたい。読まれて欲しい。
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by bookswandervogel | 2010-07-30 23:59
2010年 07月 28日

「女ともだち」

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息抜き読みにはもってこいの、気になる女性作家を集めた短編集。
テーマは派遣。

出てくるのは30代前後、微妙なお年頃のおとな女子たち。
常日頃、結婚とか出産とか仕事とかやりがいとか出会いとか自分磨きとか考えてる心も体も忙しい人種。

唯野未歩子の『握られたくて』が面白かった。
29歳11ヶ月の、派遣で働くこぶちゃんは来月の誕生日までにプロポーズされていたいと思っている。誕生日の翌日には正々堂々と婚約発表をし、誕生日と寿退社、二重の祝福を受け すぐれた女の子からすぐれた女へと、華麗なる成長を遂げパーフェクトなハーピーエンドを迎えるのが夢だ。
なので生の魚が嫌いでも、友達が用意してくれた夜釣りのダブルデートに果敢に挑んでいく。やってきた彼を”運命の人”にまで見立てて自分にハッパをかけるが、沖から戻ってみるとやはり釣りは好きになれず、きらめいて見えた彼はやつれて見え、ひとり家に帰ってくつろぐことを渇望している。 

「わたしは自分を変えることはできず、彼では、わたしを変えることができなかった。」

変えたい、でも変われない。女の子な気持ちと、年齢と経験を確実に積んだ大人の女性が混在したこぶちゃんをなんだかとてもよく知っているような気がした。                                                                                                                                                                                                                                                                                        
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by bookswandervogel | 2010-07-28 23:58
2010年 07月 27日

「道徳という名の少年」

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『道徳という名の少年』というタイトルでありながら、背徳の小説!
不道徳極まりない桜庭一樹の大人の残酷童話。

町でいちばんの美女が子供を産んだ。そしてさらに子供の、さらに...と話が現代へと続く手法は『赤朽葉家の伝説』などでも桜庭さんがお得意なところ。
『少女七竈と七人の可愛そうな大人』や『GOSICK』に匹敵する耽美主義的な雰囲気は装丁からも見て取れる。

時代もロケーションも異なるが、主人公は一様に美しい。けれど一様に孤独だ。短編のひとつひとつが同じ雰囲気をまとって華美でいて孤独な主人公たちを縦に繋げている。

『プラスチックの恋人』のスーパースター・ジャングリーナさんのイメージは、私の中では完璧に「ジギー・スターダスト」の頃のデヴィッド・ボウイ。後半から彼の顔と歌がずうっと離れなくて困った。
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by bookswandervogel | 2010-07-27 23:57
2010年 07月 17日

「甘い水」

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東さんの最新長篇。
今まで短編、中編が多く、ここまでどっぷり東ワールドに浸れることはなかった。

何かに押さえつけられ、自由は無く、自分の名前さえも与えられない。椅子の部屋、地下通路、砂の街・・・行く先々で「私」は「私」でなくなり、記憶さえ奪われていく。
「私」が変えられていっても失われることのなかったものは、確かに誰かを愛したという微かな感覚。

「自分が自分らしくある」ということ、「愛すべき対象が居る」こと。
どちらかしか選べないのだとしたら、人にとってどちらが生きていく上で必要なんだろうか。
愛すべき、守るべき者が居ない世界は いったいどんな暗闇だろう。

雲をつかむような、いつか見た夢をなぞっているかのような この不思議なお話を読んだあと残るものは、意外と深くて普遍的な間い。
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by bookswandervogel | 2010-07-17 00:57
2010年 07月 11日

「オープン・セサミ」

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20代から70代までの”いいオトナの初めて”を集めた本。
いくつになっても、様々なことを経験して いろんなことに慣れても、
どきどきさせられることって日常的にたくさんある。
いいことも悪いことも含めてだけれど、そういう経験が自分にもあるので ここに収められたお話はどれも、読んでいてとても愛おしかった。

その中でも最初(20代)と最後(70代)のお話が印象的。
「先生一年生」では文字通り、初めて生徒を受け持つ新任教師のお話。
志が高過ぎて、現場との差がなかなか埋められない・・。問題にまじめに取り組んでいる彼だけれど、飲み会ではやさぐれて、先輩教師には楯つき、ちょっと優しくされた女の人にはでれれーっと甘えて・・。
新人らしさ溢れる主人公がとても青臭くていいのだ。
最後のシーンは読んでいて笑いが堪えきれず、電車の中 開き直ってひとり満面の笑みで読んだ。

最後の「さよならは一度だけ」は、不良老人の大叔父と小学生の兄弟のある夏休みの出来事。
はっきり言ってこういう話が大好きである。
”夏休み”は誰もがすこーしだけ大人になる、子どもの特別な時間だと思う。
このお話の展開もなんとなく分かってしまうが、既視感のある夏休みの風景にどっぷり浸かり、最後にはほろりとさせられ、この兄弟と共に少しだけ自分も成長したように感じられる。

贈り物をテーマに描いた(贈られるのは決して「物」だけではない)角田光代さんの『presents』と、いろいろな「初めて」が詰まってるこの『オープン・セサミ』は、何かそういうシーンに遭遇した友へおすすめしたい、じんわり温かい本です。
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by bookswandervogel | 2010-07-11 01:46
2010年 07月 07日

「絶叫委員会」

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穂村さんの本は、読んでしまえばやはり どこを切っても穂村弘であるのだけれど、実はテーマがきっちりしていて 本の作り方がとてもまじめだ。
今回は「町には、偶然生まれては消えてゆく無数の詩が溢れている。不合理でナンセンスで真剣で可笑しい、天使的な言葉たちについての考察」とコピーがついている。

変な言葉に対して非常に敏感に反応し、それを採集。
反応→採集までは、誰でも出来るかも知れない。(しないか、採集。)
けれどそれを絶妙なリズム感のある文章でこんなに魅力的に紹介するのは、穂村氏の才能を持ってでしかできない。
誰もしてないことをこの人はしているなぁといつも思う。

その証拠に、この本の面白さを人に伝えようとして、この中の「変な言葉」を引用して紹介しようとしても、ちっとも面白くならない。穂村弘の面白さはまず伝えにくいのだ。「読んでみて。」と言うしかない。

この本の中では、キリンの存在の不思議さや キュリー夫人が椅子を着て寝ていたことや バナナの「あれ」(バナナについてるひも状のもの)について語っています。
ほらあ 説明してもちっとも面白く聴こえない。
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by bookswandervogel | 2010-07-07 00:55