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2010年 09月 26日

「世界でいちばん長い写真」

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タイトルそのままの「世界でいちばん長い写真」というのは、360度パノラマ写真でギネス認定記録を持つ山本新一さんの実話を元にした物語。
カメラが水平に13回転して撮影し、 印画紙に焼き付けると、なんと全長約150mの写真となるもの。

写真部に所属するへなちょこ中学生のノロブーこと宏伸が、ひょんなことからこの『グレート・マミヤ』なるカメラに出会う。クラスの隅っこで一日大人しく過ごしているような宏伸が、このカメラで卒業記念写真を撮ることを企画。するとじわじわと部活、クラス、学校全体での騒動となり、強めの女性陣の後押しもあって ついには全校生徒を巻き込んだ撮影会のトップに宏伸が立つことに...。

誰かと会話する度の宏伸の、声には出さない「こころの独り言」が面白い。
ーあ、ひょっとして怒った?ー
ーはぁ。そうなんすかぁ 勉強になります。ー
ー今の僕の言い方、トゲあった?ー
彼の気弱さ、人に対しての経験値の少なさ、今どきチューボーの弱っちょろさが垣間見えて可笑しく、また自分の中学生時代を思い浮かべたりする。

作者はテレビの特集でたまたま見たこのギネスの話を、『イイ!書きたい!』と思って書いたそうである。そのストレートに感じた思いが、読者にそっくりそのままストレートに伝わる『イイ!』作品です。
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by bookswandervogel | 2010-09-26 08:43
2010年 09月 21日

「小さいおうち」

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先日、作者直木賞初ノミネートでめでたく受賞した話題作。
戦前から戦後という激動の昭和を、女中という自らの職業に誇りを持って生きた女性の半生記。

この時代の小説は特に、どんなに悲惨な戦争だったのか、どれだけ大変な暮らしだったかを伝えるものは数多くあるけれど、普通に暮らしていた人々がこの時どのようなことを楽しみとして、どのようなことに幸せを感じていたかを伺えるものはあまり無い。
 
ここに出てくる女中のタキさんは、物が次第に無くなってゆく日々の生活の中で工夫し、仕える家族に対し細やかに目を配り全身で守ろうとする。
厳しい戦況下に嘆くことなく小さな楽しみを作りだし、美しいものごとを見つけ、心躍らせている。
どんなときでも捉え方、気の持ちかたひとつだ、とタキさんに励まされるようだ。

そして反面、必ずしも「戦争万歳!」でなかった市井の人々が知らない間に戦争に巻き込まれていくさまや、「戦況は常に有利」だと情報がねじ曲がって流されても、それを疑いもしなかった状況の怖さがじわりと伝わってくる気がする。

この時代に生きた女性の半生記として、姫野カオルコ『ハルカ・エイティ』もおすすめ。
タキさんに負けず劣らない素敵な女性が出てきます。
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by bookswandervogel | 2010-09-21 23:51
2010年 09月 20日

「あられもない祈り」

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「あなた」と「わたし」で綴られる、名前すら必要としない物語。
島本理生の新境地、と謳われている部分はここだろう。
冒頭から「わたし」が「あなた」との出会いやそれから起こった出来事を、治りかけた傷の痛みをなぞるように語り出す。

恋をするとあらゆる物事に心が揺さぶりかけられてしまう。
主人公の「わたし」は波音を聞いても電車に乗っても、それがこの世の中で一番大事なことのように「わたし」自身の声に慎重に耳をかたむけ、風景のどこかに「あなた」を探す。心象風景が綿密に描かれた「あなた」との時間はまるで夢の中の出来事のようだ。

けれど火照って熱をもった時間は長くは続かない。「指先で、背中で、あなたの気をひくことばかり考えていた」「わたし」、は「あなた」と暮らせない事実ばかりを認めるようになる。さらには「出会った瞬間から気付いていた」とまでになる。

時は過ぎて火傷しそうだった熱は冷め、人は変わっていくのだ。
違いは「わたし」はどうしようもなく女で、「あなた」はどうしようもなく男 ということ。
堕ちていった男は失った日々を後悔し、恋によって成長した女は、治りかけの傷の痛みにうっとりしながら男の幸せを願う。

作者独特の 綺麗な言葉と繊細な表現を隅々ちりばめた恋愛小説でありながら、息もできないくらい痛くて苦しい恋の「その後」までを淡々と描いた、ある意味かなり現実味を帯びた部分はやはり「新境地」と言うべきか。
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by bookswandervogel | 2010-09-20 23:58
2010年 09月 15日

「オテルモル」

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眠りに対して自信がない。
ちょっとした変化で寝付けなかったり、眠りが浅いのか 少しの物音で起きてしまう。

そんな悩める人々に、快適な眠りを提供するために建てられたホテル「オテル・ド・モル・ドルモン・ビアン」。
上質な睡眠のための徹底したサービスとシステム。音をなるべく遠ざけるためのホテルの設計。

この少し変わったホテルに主人公・希里は勤め始める。
『悪夢は悪魔』とスローガンを掲げる客室係の外山さんと二人、妙な間合いの会話を繰り返しながらホテルマンとしての自信を少しずつ身につけてゆく。

とぼけた印象の希里だが、彼女の家庭環境は実は非常に重苦しい。
けれど背景の重苦しさ、痛みなどにはほとんど触れずにこの小説は淡々と進んでいく。
幻想的で童話のような雰囲気と捉えどころの無い関係のやりとりが、希里の抱える痛みを隠し、彼女が誰をも恨まずくじけず、愛情に溢れている様を伺わせる。

よく眠って気持ち良さそうな顔をしたお客様に希里が朝、声をかける。
「いってらっしゃいませ。」
夜が来て 朝が来て・・また夜が来て。そして誰にも公平に朝は来るのだ。
眠りを誘う不思議な物語でもあり、清々しい明日を期待できる物語でもあった。
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by bookswandervogel | 2010-09-15 00:38
2010年 09月 12日

「すべての若き野郎ども」

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久保寺健彦つづきでもう一冊。
今回は学校をドロップアウトした恭平と、喧嘩で天下統一を狙う一匹狼の達夫が出合うところから始まる。
ハチャメチャな喧嘩っぷりとあっけらかんとした性描写とキャラがたちまくった登場人物は、久保寺作品ならでは。そしてどちらかというと世間で言うマイノリティが主人公なのはこの作品も同じ。
けれど主人公の弱い部分を肯定せず、ある種冷めた視線で見つめているところが毎度共感できるところかも知れない。

学生の頃は、難解で陰鬱としててどこか斜に構えたような作品を好んで読んでいた気がするけれど、この年になって、直球でドタバタ青春活劇で読み終わっても何も残らない(失礼。)、「あー面白かった。ぱたん。」と閉じるような本を好ましく思うというのは不思議だなぁ。

前述の『みなさん、さようなら』は最近文庫になりました。
久保寺作品、初文庫化です。めでたい。
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by bookswandervogel | 2010-09-12 10:54
2010年 09月 03日

「ご心配おかけしました。」

8月いっぱいブログをお休みしてしまいました。
髄膜炎というのにぽろっとかかってしまい、入院してたら8月がほとんど終わってしまった・・。
後を引く病気でもなく、今は治って元気に過ごしています。
安否確認(笑)や励ましのメールをたくさん頂きました。ありがとうございました。

入院中の後半はほとんど痛みもなくなり、とにかく安静にするという治療でしたので、ベッドでひたすら本を読んでました。

 「小さいおうち」中島京子
 「乱反射」貫井徳郎
 「村上ラヂオ」村上春樹/安西水丸(再読)
 「乙女の密告」赤染晶子
 「世界の終わりとハードボイルド・ワンダーランド」村上春樹(再読)
 「ノルウェイの森」村上春樹(再読)
 「パスタマシーンの幽霊」川上弘美
 「明日の空」貫井徳郎
 「ひそやかな花園」角田光代
 「ハニー・ビター・ハニー」加藤千恵
 「シャーロック・ホームズの冒険」コナン・ドイル
 「いちにち8ミリの。」中島さなえ
 「家日和」奥田英朗(再読)

病院に貸し出し文庫があり、手元にある本を全部読んでしまって困っている時に助けられました。(でも全部で50冊も無い。ボランティアの方がワゴンを押して病棟を廻る、というかわいいもの)
そこで借りた本は以前に読んだ本ばかりでしたが、小説を再読することが今まで無かったので、読みながらその当時の自分までちょっと思い出す、という楽しい体験もしました。
読んだ本はゆっくり感想をアップしていく予定です。
 
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by bookswandervogel | 2010-09-03 17:26