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2011年 01月 26日

「ハミサベス」

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大型書店が増えている。
大きいのでその所蔵数にわくわくするが、その反面ぼんやり読みたいと覚えていたはずの本のタイトルを私はすっかり忘れてしまう。店内がくまなくきれいで整然と陳列されていて見易くて検索機能も充実していて...という書店が主流になってきているが、それぞれの書店のカラーが無くなってきている気もする。

以前に、出掛けた小さい町の書店で栗田有起という作家の本に出会った。
言わばぱっとしない感じの、よくある『町の本屋』なのだけれど、棚前のプッシュが凄かった。
いわゆるベストセラーは一応目立つところに置いてはいるものの、あちらこちらに点在する『プッシュ本』に比べたら申し訳程度にしか冊数も無い。
『オテルモル』『ハミサベス』といった変なカタカナ語に惹かれて、また棚前の展開に押されて買ってみた。

読んでみたらとても個性的で雰囲気のある文章、あの店での出会いに感謝した。
取り分けドラマチックなことが起こらなくても、独特のユーモアとリズムのある会話で笑わせてくれる。主人公の状況が辛いものでも、なぜか暗い影はどこにも見えない。
誰に対してもわかったふりをせず、他の人が書いたらきっと「どうなの?」という表現でさえ下品な感じがまるでしない。

大都会に出来たばかりの大きな書店で、何を買おうか?と迷った時、あの出会いを思い出して「そういえばデビュー作を読んでなかった」と、検索機で『くりたゆき』と調べ、棚の間をキョロキョロとし、安心できる作家の一冊をやっと見つけ出した。

出会わせてくれた本屋は、久しぶりに行ったらもぬけの殻だった。しばし呆然。また個性的な本屋が町からひとつ消えてしまった。
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by bookswandervogel | 2011-01-26 00:51
2011年 01月 20日

「海炭市叙景」

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読み終わってからしばらく経つのに、余韻がずっと残っている。
今も、彼らが北の寒い町で 私たちと同じように、それぞれの日々を淡々と過ごしてるような気がして、彼らが暮らす町の風景を、ぼんやり思い描いたりしている。

架空の町「海炭市」(作者の故郷・函館がモデル)を舞台に、十八組の登場人物たちの生活の断片が綴られる。
始まりの章『まだ若い廃墟』が物語の核となっているように思う。身寄りのない貧しい兄妹が除夜の鐘が鳴る中、初日の出を見にロープウェイで山の上の展望台に登る。ここに出てくる山は他の章でも、町の象徴のように現れる。この章の物語とこの山の存在が、寂れつつある町にさらに影を落としている。

けれど、ただの暗く寂しい話ではない。
彼らの慎ましく働く姿や、家族とのすれ違い、いつも不安で、劇的な出来事などひとつも起こらない日常は、そっくりそのまま私たちのものだ。もがきながらもたくましく生き、ささやかな喜びに顔をほころばせる姿をとても愛おしく美しく感じられる。

映画化により、この度文庫化され、さらに周りの評判を耳にし、手に取ることができた。
こんな作品をずっと読みたかった。この作品に出会えてほんとうにうれしい。
小説というものが 読書という行為が、ほんとうに素敵だと心から思った。
彼の作品がもっと読みたくて、『佐藤泰志作品集』(クレイン刊)を買いました。
ゆっくりじっくり 一日のいちばんいい時間に読もうと思っています。
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by bookswandervogel | 2011-01-20 00:26
2011年 01月 09日

「民宿雪国」

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『民宿雪国』の主・丹羽雄武郎にまつわるプロローグを挟み、しょっぱなから非常に暴力的なシーンと猟奇的な殺人場面が勢い付けて押し寄せる。

けれど次の章からは一転、彼はたまたま民宿に訪れた客に生きる勇気を与え、続く元従業員の回顧録では寡黙な清廉潔白な苦労人の恩師となっている。寂れた民宿の主、という顔は仮の姿なのか?プロローグにある「国民的画家」とは誰のこと?いったいこの話はどこへ?と思っていると、丹羽の人生を物語る章が始まる。

丹羽が関わる者によって姿をころころ変え、また実は『雪国』は昭和を代表する実際に起こった様々な事件とリンクしていた!という展開は面白く読めたけれども、後半部分多くを割いた丹羽の戦争が深く絡んだ半生と、前半部分の物語との繋がりがよくわからず、小説としてのまとまりに欠ける感じがした。

丹羽という人物の虚と実が入り交じり、結局最後まで真相は掴めない。
非常に説明のしにくい、また評価の分かれやすい作品だと思う。
いきなり4速入れてトップスピード!な勢いは著者ならでは。
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by bookswandervogel | 2011-01-09 23:39