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2011年 02月 27日

「いちばんここに似合う人」

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プールのない砂漠で、一度も泳いだことがないという老人たちに水泳を教える『水泳チーム』、恋愛をしたことのない老人が友達に「妹を紹介してやるよ」と言われて激しい妄想が始まる『妹』、顔の痣を手術して取るが、痣とともに「何か」も消えてしまう『あざ』。

読んだことのない、不思議な感覚の十六の短編。
出てくる人は誰もが独り。誰と一緒に居ようと、孤独な気持ちを抱えた一人のひと。

自分の抱える孤独な部分を誰かに伝えることは、とても難しく、とても恥ずかしいことのようでためらわれる。
彼ら自身の孤独は、それぞれ奇妙なかたちをしていて、真剣過ぎて、とても可笑しい。
彼ら自身が思っている「自分」とは本当はすこし、というか結構かけ離れているその姿を見ているこちら側は そのずれが可笑しくて笑ってしまうが、いやいや笑ってられないぞ・・読んでいる私もそう彼らと変わらないかも・・。とだんだん読むうち気付いてくるのだ。

孤独を表現するのに「あーさみしいよう」と主人公を泣かせたりせず、笑いをもって淋しさを書いたこの作品は、独りを楽しむ読書好きにはもってこいの一冊です。
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by bookswandervogel | 2011-02-27 23:55
2011年 02月 16日

「暗渠の宿」

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自分の中で大流行りな西村賢太。間髪入れず読んでいます。
『暗渠の宿』は第29回野間文芸新人賞受賞作。

普通のかたちでの、ありきたりな相思相愛の恋人を欲していても、望んでも望んでもその思いはまるでかなえられない。牛丼屋に入って来たカップルに憧れ、羨ましすぎて『私』は気が狂いそうになる。そんな自らの淋しさをまぎらわすべく、また夜の街へとくり出すが・・・。

悲惨な中にもユーモアがあり、愚かで惨めったらしく、嫌悪感を抱くエピソードが多く書かれていても、それをも突き抜ける笑いがある。
また古めかしい文体や文章のリズムも独特で癖になる。「たまさか」とか「お為ごかし」とか「結句」「莞爾」などが頻繁に使われる。
そしてたびたび人に向かって暴言を吐くが「ぼくからすりゃあ乞食だろうが博士だろうが、エチケットをわきまえねえ奴は皆これ百姓だ」「ぼくだけ先に食べるわけにもいかねえから、おまえが席に着くのを待っててあげてたんだから、それでまた尚のこと、のびくたれていくじゃねえかよ」と口汚く罵る場面でも、自分のことをすべて「俺」ではなく「ぼく」と名乗るミスマッチが可笑しい。
「根が人一倍の心配性」「根が堪え性に乏しい」など「根が○○」シリーズは次はどんなネタで来るか?と楽しみだが、『暗渠の宿』に出てきた「根がどこまでもスタイリストにできてる」には、電車で読みつつも吹き出してしまった。

終始「〜であった。」「〜である」口調なのに対し「ーこのときの私は彼女の言うことはなんでも素直に信じられる思い。」「何やらそれまでの暗くふさがっていた心には、急に芳香混じりの明るい日射しがさし込んできた感じ。」など、リズムを変調してくる場面は何やら著者のピュアな部分に触れたかのようできゅんとさせられる。

この2編は特に、自身が傾倒する藤澤淸造の引用が上手く、そしてオチがとても好みなのでした。
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by bookswandervogel | 2011-02-16 23:23
2011年 02月 15日

「苦役列車」

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第144回芥川賞受賞作。
中学を出て、日雇い湾岸人足仕事でひとり生計を立てる十九歳の貫多。
友人も恋人も居ない彼はある日の人足仕事の昼休み、同い年の専門学校生・日下部と人間らしい「会話」を果たす。会う度その「会話」は増え、他者とまともに口を利く事態から遠ざかっていた彼は日下部に激しく惹かれ、すり寄ってでも友人にしてもらいたいと願う。それは貫多にとって実に久しく芽生える機会のない感情だった。

と、この後の展開は西村作品を読んだことのある方なら、なんとなく想像がつくだろう。
心から人と人との温かい触れ合いを渇望しているのにもかかわらず、少しでもその兆しが見え始めると、なぜか自分から壊しにかかってしまう貫多。

犯罪者の父を持ち、そのために家族が追い込まれた苦しい過去があり、そういった生い立ちが彼の暗く歪んだ性質を形つくり、前途の希望もなく、ある種の諦観と半ばヤケな開き直り癖をつけてしまったと言えなくもない。けれどそういった生い立ちのせいにしながらも、どこかべつの視点からしごく真っ当に自分を見ている、自分の持つどうしようもなさを受け入れているようにも思う。

「ダメ」という言葉ではとても追いつかない、どうしようもない落ちぶれぶりを見せる貫多だけれども、みっともなさを隠そうともしないその愚直さにどうにも説明のつかない魅力がある。
どれも西村自身の私小説であり、どれも行き着く先はわかっているにも関わらず、次々と読まずにはどうしてもいられない。
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by bookswandervogel | 2011-02-15 01:48
2011年 02月 10日

「嫌な女」

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装丁の感じとタイトルからなんとなく想像していた内容とは、まるで違った。出てくるのは男を手玉に取る詐欺師・夏子と、頭はいいのだけれどなんだか融通が利かない弁護士・徹子、この二人。

徹子の遠縁である夏子は元婚約者から結婚詐欺を訴えられる。弁護を依頼された徹子は真相を知るべく、夏子周辺の人々にひとりひとり話を聞いてまわることに。
その件以来、夏子が日本各地で次から次へと起こす、その時の流行にうまく乗った詐欺の後始末に奔走する徹子。

小さい頃からどこか人を信用しきれず、冷静沈着でいて頑固な徹子の心は、皮肉にも人を情にかけて騙そうとする夏子の事件を追うごとに感情を揺すぶられ、少しずつほぐされていく。

夏子とはいったい、どんな女?事件を徹子はどう捉え、どう解決するのか?という推理の面白さ、夏子を通して自分自身を見つめる徹子の成長物語、「弁護士」という特殊な仕事の内実、また「歳を重ねるとはどういうことか」というテーマも含んで、読み応えはたっぷり!

これだけ盛り込んでいるのに、話の軸がぶれず、ちょっと気を抜く場面もやりすぎない、全体に書きすぎてない感じが絶妙。早くも『今年読んだ本ベスト』に入りそうな予感。
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by bookswandervogel | 2011-02-10 00:50
2011年 02月 04日

「飛び跳ねる教室」

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歌人集団「かばん」に所属し、作歌活動しながらも中学で国語を教える(現在は高校)千葉聡=ちばさと先生の学校奮闘記。

赴任してすぐに言われた「ちばさと、キモい。」から始まり、消しゴムを投げられたり、無視されたり、授業放棄、そして「学校やめちゃえよ、役立たず。」の言葉。学級崩壊の問題は今やどこの地域でも聞かれる。『教師』という立場もずいぶん変化してきているように思う。

中学生はどの子の顔を見ても、とっても曖昧。
曖昧でいて難解、残酷で生意気、まじめ過ぎてまっすぐ過ぎる複雑極まりない生き物だ。
けれど誰もがそんな顔をしていた時期があって、誰もがかっこ悪く、誰もが恥ずかしい思い出があるからこそ、町で見かける中学生をかわいく感じたりもするのだろう。

上に挙げた学校の問題を引き起こしたのは生徒で、つらい立場にいるちばさと先生を救ってくれたのも生徒。上からの目線でものを言わず、純粋でナイーブで多感なのは君たち生徒だけではない!とありのままの姿をさらけて見せた結果なのかも知れない。また、周りで支えてくれる同僚、先輩の先生たちもとてもいい。

「日々悩んでいたけれど、出てくる思い出はすべてあたたかい」
教師生活の中で詠まれた短歌はみずみずしく、中学校生活に熱い思い出があろうとなかろうと、夕日に包まれる放課後の校舎の中、薄暗い教室や廊下で佇む自分の姿をきっと誰もが思い出すだろう。

変に生徒の下に出ておべっか使う訳でもなく、いわゆる「いい話」にし過ぎてないコミカルさに好感が持てた。時に恥ずかしくなるよな青春時代のワンシーンにキュンとしてほろりとさせられます。
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by bookswandervogel | 2011-02-04 01:18
2011年 02月 02日

「漂砂のうたう」

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先日、第144回直木賞を受賞した作品。
時代小説はあまり得意ではないけれど、初めて読む作家や苦手な分野もこういうきっかけがあるとトライしやすい。

時代は明治初頭の東京・根津。
明治維新から10年。時代にうまく乗り切れず、とまどいながら生きる人々。対照的な遊郭の華やぎが淋しさをさらに色濃くしている。

いつのまにか根津遊郭に流れ着き、客引きを生業とする主人公の定九郎は飄々としたお調子者に見えるが、必死に隠している出自がある。
その定九郎になぜかまとわりつく噺家の弟子のポン太、鋭い観察力を持つ番頭の龍造、その品の良さと賢さで一番の人気を誇る花魁・小野菊。
個性的なキャラクターが代わる代わる定九郎の前に現れる度に、場面の雰囲気が変わる。
特に花魁の小野菊のシーンでは、彼女が好んで焚いているという香が匂い立つようだ。

ポン太が定九郎に披露するお噺と現実が絡まり、『落語ミステリ』の味わいもある。
吉原とも違う根津遊郭の町並みがありありと目に浮かび、どこかいつも湿って重たい空気も読みつつ体感できる。いつのまにか現実と幻を行ったり来たり。ざわざわと胸騒ぎのする時代に、ひとりタイムスリップしたかのような面白さ。
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by bookswandervogel | 2011-02-02 01:04