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2011年 11月 25日

「犯罪」

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ドイツでも屈指の刑事事件専門の現役弁護士が書いた小説。、
自身の事務所が扱った事件をベースにした、この連作短篇集がデビュー作となる。

全体に無駄をかなり省いたクールな筆致。事件は突然に それこそ後ろからふいに殴られたようにガツンと重く衝撃的で、対照的に事件にまつわる人の心の闇がひたひたふつふつと染み出すように描かれている。そのリズム感と、事件の衝撃は大きいのに静けさが漂うような雰囲気がとても魅力的。

人の持つ奥深い闇の部分。または自分が持っている考えの裏の裏。
こうなれば→こうなる という画一化された推理や仮説を、違う視点から見せることで、読んでいる者の心の中までざわざわと禍々しくさせる。こんな感覚が自分にもあったのかも知れない、と少し不安にさせられる。

トリックのあるミステリではなく、ただ淡々と犯罪は起こり、語られるのは犯罪者の人生。
悲惨で猟奇的なシーンもあるにもかかわらず、なぜか心を動かされる この独特の空気感は他に似た作家を挙げられない。
今年の翻訳ベストミステリにもランクインするのではないだろうか?来年発売予定の第二短篇集も楽しみ。
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by bookswandervogel | 2011-11-25 01:22
2011年 11月 13日

「オリンピックの身代金」

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昭和39年夏。10月に開催されるオリンピックに向け、世界に冠たる大都市に変貌を遂げつつある首都・東京。この戦後最大のイベントの成功を望まない国民は誰一人としていない。けれど華やかな東京オリンピック開催の裏で虐げられた人々が存在した。
世紀のイベントを前に、東京オリンピックそのものを人質に取って身代金を要求するという事件が起こる。そのテロリストの正体とは?

高度経済成長期に於ける「光」と「影」が照らし出される。
東京と地方、富裕層と貧困層、学がある者と無い者が、事件の背景として綿密に描かれ、物語の大きな核がじわりじわりと伝わってくる。
また事件を犯人側、警察側の双方からの視点から描くことで、構成自体も光と影の効果をもたらしていて巧い!

この頃の日本、昭和30年代を題材にした作品というのが、とても好きだ。
悩んだりつまづいたりしても、誰も止まらない 誰も動きを止めない。ニートもフリーターもうつ病も、その呼び名さえ無かった時代。
その先に成功が待っていようと、墜落が待っていようと、人も国も時代にも生きる勢いがある。

若き孤高のテロリストの胸の内はとても熱く、自分の考える正しさに向かって真直線に突き進む。やっていることは過激なテロに過ぎないが、やはり読む側としても貧しい側につかないわけにはいかなくなる。読み進めるほど、労働者たちの悲しみ、怒り、もどかしさ、諦めがひしひしと胸に響く。

作風が毎度違う奥田英朗の中でも、どしん!と重い作品。
だんだんと明らかになる人物像、理不尽な時代への憤りとともに、オリンピックに日に日に近づく緊張感も相まって、ページを捲る手が止まらなくなる。

足すのではなく、引いたラストが著者らしいところ。国という大きな組織に立ち向かった男の孤独、悲しみや切なさがより際立っていた。
文庫解説は川本三郎さん。
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by bookswandervogel | 2011-11-13 23:55