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2008年 10月 19日

「きのうの世界」

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一人の男がいきなり姿を消し、一年後にとある町で死体で発見される。
男は会社員。真面目で温厚、特に特徴も思い出せないような「普通の男」。
失踪した男が最後に暮らした町で 彼に少しでも関わった人物が 
語り部となり事件を追う。出てくる人物は、男を含め普通に暮す市井の人々。どこにでも居るような 人としての営みを繰り返す人々。

けれど人は多面性が誰にもあり、自分が見ている「その人」は必ずしもその人の全てではない。そして「その人」の持っている負の要素 たとえば孤独であったり 寂しさ 劣等感 悲しみ怒りいろいろな違和感・・はどんなにその人を心から理解しようと思っても、努力はできても当人の持つ深さまでには、誰も辿り着けないものなのだ。

男には、ごく普通に見えていた男には 誰も持ち得ていない ある能力があった。
男は死ぬけれど、ラストの彼がゆっくりとこの世から去る場面は、彼の今までのとてつもない孤独感が痛いくらいに感じられて、寂しくて寂しくてしょうがなかった。
それは人の痛みを自分のモノのように感じたいのだけれど、辿り着けないんだと思い知らされた時の寂しさ、
だろうか。
話自体はSFやファンタジーが色濃いけれど、でも・・想像を膨らますと、通勤電車で乗り合わせた隣のこの人は・・と思わずにはいられないリアリティがある。
恩田陸らしい不思議で不安定な世界。
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# by bookswandervogel | 2008-10-19 01:21
2008年 10月 14日

「ありったけの話」

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この作家もデビュー当時から気になって、読んでいるひとり。
これが3作目です。

一度離れてしまった大事な人と、また繋がりたいと願う ひと。
お互いにとても求めているのに、永遠に繋がれない ひと。

主人公のユキが 前に進めるようになったのは 父親を雪山で亡くした
少年・葎の存在があったからだ。
少年は真夜中、冷蔵庫の前に座り 父親を待つ。
まるでトビラが雪山の向こうのお父さんに繋がってるかのように、待つ。

でも生きてれば ほんの少しのきっかけだけで 少しづつ歩み寄れる。
6年間 問い続けた「ありったけの話」を持って、会いに行ける。
たとえどんな人になっていようと、会いに行ける。

友達との関係の描き方が、あまり共感できなかったけれど
全体にほの暗い 雪の積もった冬の日に、重たい雲間からきらっと光る太陽を見たような
そんなお話でした。

作家本人が描いた本の隅っこのパラパラ画も、最後にぴょいっと、飛ぶのです。
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# by bookswandervogel | 2008-10-14 23:12
2008年 10月 10日

「波打ち際の蛍」

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この人の繊細で丁寧な 心の中の描き方に惹かれて
処女作からずっと読んでいる。

うーん・・私とってはちょっと乙女チック過ぎるなぁ・・という場面もあるけれど、いつも新刊が出るたび すごく楽しみにしていて、
しかも読み進めるのがもったいない まだ読んでたい、と思わせるものは やはりこの人の持つ筆の力なのだろう。

心に深い傷を負った女の子と その後出会う男の子の、惹かれ合っているのに近づけない、はがゆい物語。主人公の女の子の心の傷が、
現在と過去が 少しづつ丁寧に描かれている。

特殊な傷 特殊な恋愛に見えがちだが、でもそうではない。
出てくる人の痛みを おなじに「痛い」と思うのは、誰もがその痛みを知ってるからだ。
恋愛で傷ついたことのない人は居ないし ひとつとして同じ恋愛は無い。

人 で負った傷は 人にしか 治せないんだよなぁ。
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# by bookswandervogel | 2008-10-10 00:20
2008年 10月 05日

「谷川俊太郎 質問箱」

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すごく近くに居る人のような顔で、谷川さんが答える。
時になんだか突き放したような答え。
大人の人らしいまっとうな答え。
そしてこちら側が考えもしなかったような、どきどきしちゃう答え。

高校生の頃 バイトして稼いだお金で、谷川さんの本を一冊ずつ買うのを楽しみにいていた。言葉に匂いがあるような、どきどきさせる詩人の本。
男の人の”色っぽさ”を年の離れた詩人に感じた。

あれから随分経った今も、私の中の谷川さんの位置は変らない。
谷川さんはいつだって、先を知ってる大人なようで うぶなようで 正直なようで 
うそつきなようで。
そしてこの人はいつだってあたらしい。そして色っぽい。

ちなみに「色気はどうしたら出るのでしょう?」 という質問に、
詩人はやはり ほほーん、という 答えかたをしている。
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# by bookswandervogel | 2008-10-05 23:26
2008年 10月 01日

「生きるとは、自分の物語をつくること」

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対談として、とても短い本。まだ続くはずだったものだから。

「博士の愛した数式」の話から なにか世間話のように続く
ふたりのやりとり。
小川さんの素朴な質問にわかりやすく、ユーモアあふれる言葉で
かえす河合さんの言葉が 読んでいるこちらにもやさしく響く。


「人は、生きて行くうえで難しい現実をどうやって受け入れていくか
 ということに直面した時に、それをありのままの形では到底
 受け入れがたいので、自分の心の形に合うように、その人なりに                     現実を物語化して記憶にしていく、という作業を必ずやっている。」

臨床心理では、自分なりの物語を作れない人を、作れるように手助けをする。

作家はその人の記憶を お話の形で取り出して、再確認するために書いている。

私は、自分の中の もやもやしたどうにも形にできない記憶を、詩を読んだり
小説を読んだり 言葉という形で体験して、やっと心の中に ごっくんと受け入れることが
できているようなような気がするのだ。

あとがきの長さは 小川さんの悲しみ さみしさを表している。
お会いしたことさえないけれど、ひまわりみたいな温かなひとを亡くしてさみしい、
という気持ちを 小川さんと同じく味わった。
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# by bookswandervogel | 2008-10-01 00:06
2008年 09月 26日

「荒地の恋」

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とても変った小説だった。
登場人物がすべて実在し、しかも実名で出てくる。
主人公の北村太郎、鮎川信夫 そして酔いどれ詩人
として有名な田村隆一。
現代の詩人として記憶に新しい人達だけに、「よく書けたなぁ」と思ってしまった。
まるで見ているかのような 生々しい情景。

ねじめさんは覚悟して書いたのだ。自分達の時代を、そして自分の周りに居た愛すべき仲間たちを描くことを。
実際 念入りに取材をし、家族の気持ちを考え、登場する人物に書くたびゲラを読んでもらって・・。

    その真摯な努力があったからこそ、この小説の迫力があるのだ。
    「簡単に自由自由、というけど、自由に生きるってことは、こんなに大変なことなのか、
     っていうことがこの小説の中で一番書きたかったこと。」

     詩と死に常に寄り添い、53歳で自由を手にした 男の人生。

      モノをほしがる物欲、のほかに
      ココロをほしがる心欲、まで持っているから
      ヒトは怪物、なのだ   
                 ー 「すてきな人生」 北村太郎

    
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# by bookswandervogel | 2008-09-26 23:45
2008年 09月 22日

「ロマンティック リハビリテーション」

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北は秋田、南は沖縄まで、懸命なリハビリをして生きる人々の
20の物語。
自分では想像もつかないほどの 厳しい病と闘う日々。

けれどこの本の中に納められているのは 宝物のような笑顔の数々。
びっくりしてしまった。 そして胸が詰まった。


脳梗塞で倒れた多田富雄さんの言葉。
「五体の半分の力を失った私のリハビリ闘争には
 まだ左手の指と言葉という武器がある 私を滅ぼすことはできない」

題名には「リハビリテーション」には似つかない「ロマンテイック」がくっついている。
なぜ?は読んだらわかる。「夢みる力」なのだ。

自分がいつか、心がずたずたに傷つくような病に直面したとき、
彼らの周りに居るような温かい人々に私も出会いたい。
「夢みる力」に導かれたい と、なにか眩しいものを見るように思った。
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# by bookswandervogel | 2008-09-22 23:52
2008年 09月 18日

「本を読むわたし」

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華恵さんが4歳から14歳までの、本と結びついた大切なお話。
アルバムをめくると そこから思い出されるエピソードが誰にもあるように、いい思い出も 苦い思い出も そばにいつもある本が 彼女のそれを知っている。

 それよりも 何よりも。
彼女のまっすぐな目線。嘘のない文章。

読んでいると いつの間にか彼女の歳になって、一緒になって
喜んだり 傷ついたりしている。
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# by bookswandervogel | 2008-09-18 00:31
2008年 09月 15日

「レモンとねずみ」

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石垣りんさんの未発表集。 
とても穏やかで いつも微笑んでいる  ひと
彼女を知る人達は そういう印象  だそう。


でも作品は いつも 身を切るような 痛み  
自分の弱さを 鋭く突く ことば。

あかるくて かわいい詩を ひとつ。

  「 虹 」

虹が出ると  みんなおしえたがるよ
とても大きくて  とても美しくて
すぐに消えてしまうから
ためておけないから
虹をとりこにして  ひとつ金もうけしようなんて
だれも考えないから
知らない人にまで
大急ぎで教えたがるよ
虹だ!
虹が出てるよ
にんげんて  そういうものなんだ
虹が出ないかな
まいにち
虹のようなものが
出ないかな
空に。
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# by bookswandervogel | 2008-09-15 23:39