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2010年 09月 20日

「あられもない祈り」

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「あなた」と「わたし」で綴られる、名前すら必要としない物語。
島本理生の新境地、と謳われている部分はここだろう。
冒頭から「わたし」が「あなた」との出会いやそれから起こった出来事を、治りかけた傷の痛みをなぞるように語り出す。

恋をするとあらゆる物事に心が揺さぶりかけられてしまう。
主人公の「わたし」は波音を聞いても電車に乗っても、それがこの世の中で一番大事なことのように「わたし」自身の声に慎重に耳をかたむけ、風景のどこかに「あなた」を探す。心象風景が綿密に描かれた「あなた」との時間はまるで夢の中の出来事のようだ。

けれど火照って熱をもった時間は長くは続かない。「指先で、背中で、あなたの気をひくことばかり考えていた」「わたし」、は「あなた」と暮らせない事実ばかりを認めるようになる。さらには「出会った瞬間から気付いていた」とまでになる。

時は過ぎて火傷しそうだった熱は冷め、人は変わっていくのだ。
違いは「わたし」はどうしようもなく女で、「あなた」はどうしようもなく男 ということ。
堕ちていった男は失った日々を後悔し、恋によって成長した女は、治りかけの傷の痛みにうっとりしながら男の幸せを願う。

作者独特の 綺麗な言葉と繊細な表現を隅々ちりばめた恋愛小説でありながら、息もできないくらい痛くて苦しい恋の「その後」までを淡々と描いた、ある意味かなり現実味を帯びた部分はやはり「新境地」と言うべきか。
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by bookswandervogel | 2010-09-20 23:58


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