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2010年 11月 14日

「Iターン」

「Iターン」_b0145178_1144969.jpg
『思いかえせば、さまざまなことをあきらめてきた。一流大学をあきらめ、一流企業への入社をあきらめ、いまの会社での出世をあきらめ、理想の結婚をあきらめ、理想の家庭をあきらめ、その都度、これが人生だと思ってきた。』

そんな47歳、平凡なサラリーマンの狛江はリストラを見越した左遷で、本社勤務から北九州へ単身赴任となる。業績を上げないと首を切られる状況の中、今までのやり方は全て空振りに終わり、新たに踏み入れたのは借金地獄と本場北九州ヤクザの世界。

毎日毎日目が覚めるたびに借金が増えてて、支店長という彼の立場は危ういものになり、禁酒禁煙はいつの間にか解かれ、犯罪に巻き込まれ、体もボロボロになっていくのだけれど、なぜか狛江自身はそれらに鍛えられてか日に日に強くたくましくなり、半ばヤケのやんぱちではあるけれど降り掛かる様々な問題に屈せず修羅場をくぐり抜けて行く。

ヤクザの世界に足をいつの間にか踏み入れ、状況に流され従わされていく狛江が、朝になるとまたネクタイをしめて会社に出掛けて行くところが何とも可笑しい。
誰にも相手にされなかったダメな中年サラリーマンが自分と自信を取り戻していく様は、毎朝通勤時にこの本を読みながらとても元気をもらった。(あまりに悲惨なので「狛江さんよりはまだまし。」と『マイ・ライフ・アズ・ア・ドッグ』のように思った。)

この小説を読んだ後、文春「本の話」9月号に寄せられた著者の「正論の時代にむけて」を改めて読んだ。終始ドタバタしてちょっと笑えるこの小説の裏の、著者の本当に描きたかったことが語られています。必見。

by bookswandervogel | 2010-11-14 02:40


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