2011年 02月 02日
先日、第144回直木賞を受賞した作品。 時代小説はあまり得意ではないけれど、初めて読む作家や苦手な分野もこういうきっかけがあるとトライしやすい。 時代は明治初頭の東京・根津。 明治維新から10年。時代にうまく乗り切れず、とまどいながら生きる人々。対照的な遊郭の華やぎが淋しさをさらに色濃くしている。 いつのまにか根津遊郭に流れ着き、客引きを生業とする主人公の定九郎は飄々としたお調子者に見えるが、必死に隠している出自がある。 その定九郎になぜかまとわりつく噺家の弟子のポン太、鋭い観察力を持つ番頭の龍造、その品の良さと賢さで一番の人気を誇る花魁・小野菊。 個性的なキャラクターが代わる代わる定九郎の前に現れる度に、場面の雰囲気が変わる。 特に花魁の小野菊のシーンでは、彼女が好んで焚いているという香が匂い立つようだ。 ポン太が定九郎に披露するお噺と現実が絡まり、『落語ミステリ』の味わいもある。 吉原とも違う根津遊郭の町並みがありありと目に浮かび、どこかいつも湿って重たい空気も読みつつ体感できる。いつのまにか現実と幻を行ったり来たり。ざわざわと胸騒ぎのする時代に、ひとりタイムスリップしたかのような面白さ。
by bookswandervogel
| 2011-02-02 01:04
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