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2011年 02月 15日

「苦役列車」

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第144回芥川賞受賞作。
中学を出て、日雇い湾岸人足仕事でひとり生計を立てる十九歳の貫多。
友人も恋人も居ない彼はある日の人足仕事の昼休み、同い年の専門学校生・日下部と人間らしい「会話」を果たす。会う度その「会話」は増え、他者とまともに口を利く事態から遠ざかっていた彼は日下部に激しく惹かれ、すり寄ってでも友人にしてもらいたいと願う。それは貫多にとって実に久しく芽生える機会のない感情だった。

と、この後の展開は西村作品を読んだことのある方なら、なんとなく想像がつくだろう。
心から人と人との温かい触れ合いを渇望しているのにもかかわらず、少しでもその兆しが見え始めると、なぜか自分から壊しにかかってしまう貫多。

犯罪者の父を持ち、そのために家族が追い込まれた苦しい過去があり、そういった生い立ちが彼の暗く歪んだ性質を形つくり、前途の希望もなく、ある種の諦観と半ばヤケな開き直り癖をつけてしまったと言えなくもない。けれどそういった生い立ちのせいにしながらも、どこかべつの視点からしごく真っ当に自分を見ている、自分の持つどうしようもなさを受け入れているようにも思う。

「ダメ」という言葉ではとても追いつかない、どうしようもない落ちぶれぶりを見せる貫多だけれども、みっともなさを隠そうともしないその愚直さにどうにも説明のつかない魅力がある。
どれも西村自身の私小説であり、どれも行き着く先はわかっているにも関わらず、次々と読まずにはどうしてもいられない。
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by bookswandervogel | 2011-02-15 01:48


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