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2011年 03月 26日

「不運な女」

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あまりのことに頭がぼんやりする。
毎朝目覚めては 夢だったのか現実だったのかとほんの少しの間逡巡し、あぁ現実なのだったと落胆しては一日が始まる。

ずっと昔に読んだブローティガンの『不運な女』。なかなか晴れ間が現れない曇天のような、この本。
一人の男が、女友だちの「死」に寄り添いながら旅をする。アメリカを中心にサンフランシスコ、カナダ、アラスカ、ハワイ...。彼は旅の先々で目にしたもの、出会った人を面白そうでも、つまらなそうでもない語り口でぽそりぽそりと語る。
本当は バークレーで自死したその彼女について、何らかの意味や理由や結論を問いたいのだ。少しでも、ほんの少しでも彼女に近づいて理解をしたい。
けれど旅が進んでも、ふと思い出したかのような「ふり」で、彼女のことは断片的に語るのみ。彼女の名前すら出て来ない。彼女についての、選んだ死についての核心には触れぬまま、旅先での記述は終わる。

意味あることのように語られた旅先での出来事は放り出されたまま、読み手も「彼女の死」という事実だけが頭の後ろ側にぼんやりと重く残る。

人が居なくなった後に残るのは、大きな 到底埋めることができない大きな穴ぼこだ。
近しい人はなおさら。けれど少しでも関わりのあった人にも、また会ったことの無い人にさえも、穴ぼこは空く。
誰もが経験した事のない「死」について理解に苦しみ、そして今まだここに居る「私」の不思議を感じる。
大きな穴ぼこの前で立ち尽くす、たくさんの人をひとりひとり ぎゅうっと抱きしめたい思いにかられる。そして私自身の不安も、今ここに居る不安を、ぎゅうっとすることで和らげられたらと願うのだ。
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by bookswandervogel | 2011-03-26 21:29


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