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2011年 04月 16日

「わたしの彼氏」

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劇的な出来事が起こったり、胸をぎゅーっとされるような感動的なお話は出てこないので、たくさんの読者が居てモーレツに票を得るような作家ではないと思う。
けれど青山さんの小説を読んでいると、私は度々 ほぅーっというため息を洩らす。
難しい表現もなく、さらりと読める。気負いも、「こう書いてやろう」という企みも衒いも見えない。
人の気持ちの微妙な揺れや、想像しては消えていくそれぞれの勝手な思案だとか、情景の切り取りかただとかに ほぅーっとしてしまう。
決して書き過ぎない、難しくしない簡潔なやり方がとても好きだ。

主人公の鮎太朗は美男で優しくて素直で紳士な大学生。
こう書くと何の抜かりもないように見えるが、どうしてか彼は付き合った女性に次々と振られる。

恋を重ねて、あるようで無かった鮎太朗自身の形がだんだん露になり、影を濃くしていくという大きな流れがあるように見える。しかし鮎太朗の成長物語を目指して描いたものではない。
人が恋をした時のエネルギー、それがまっすぐまっとうなものではなくて、思い込みや勘違いや危うさというものを含んで燃え上がる、浅はかで、でも愛おしい恋のかたちが様々に描かれている。

恋人に振られたばかりの鮎太朗が、またすぐ恋する女性に出会ってしまう。
『鮎太朗は刺すような痛みに耐えかねてノートに彼女の名前を書きなぐった。自分はあまりに急速にコドリさんが好きだ、詩が書けそうなくらいだ!』

鮎太朗に片思いするテンテンが、複雑なる自分の気持ちを複雑に捉えようとするけれど、
『そもそもわたしは何を望んでいるのか?(中略)でも、そうだ、どんな理屈をこねてみても、結局わたしはそうなのだ。鮎太朗とそういうことがしたいのだ。ふつうの恋人たちのように、自分たちは恋人同士だと自信を持って、外を出歩いたりおいしいご飯を食べたり裸で触りあったりしたい。どうしても欲望に勝てない。命をかけてぜひそうしたい。』

恋をしてる人は独りよがりで浅はかでばかだなぁ。でも大好き、こういう感じ。
出てくる人物の日常のくだらなさ、みみっちさ、慎ましさ いわゆる「普通」な日常が自分と離れてなくてうれしくなった。
そしてまたまた青山さんの文章の巧みさにため息をつく。

by bookswandervogel | 2011-04-16 10:33


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