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BOOKS WANDERVOGEL

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2010年 04月 16日

「星が吸う水」

「星が吸う水」_b0145178_2345735.jpg
個人的に気になっている村田沙耶香。
『ギンイロノウタ』はオドロオドロしてたけれど、こちらはテーマもストレート。すこんと垢抜けた作品。

「ねえ、性行為してて、性が邪魔だって思うことはない?エロさが邪魔っていうかさあ」
2篇とも言いたいことはここだと思う。主人公は二人とも、女でいることを嫌がっていない。男になりたい訳でもない。そして他人と肉体と体温をもって、コミュニケーションしたい。

う〜ん..考えたこともないけど、解らない訳ではないなぁ。
例えば表題作にでてくる主人公・鶴子の友達二人は、自分の中に違和感を抱えつつも、お仕着せの”女性”の役を演じねばならず、また世間からもそれを望まれていると信じて疑わない。
もっといろいろなものから自由になろうとする鶴子は「無ければ創ればよいのだ」と、自分の身体を使って自分の『性』を創ろうとする。

2篇目の『ガマズミ航海』で彼女たちが試みた実験には共感できないが、じゃあいったいどうしたら?という問いかけには、あーでもないこーでもないと誰かと議論をしてみたい。

# by bookswandervogel | 2010-04-16 20:28
2010年 04月 11日

「南の子供が夜いくところ」

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著者が5作目にして「新境地に挑んだ」という作品。
今までの日本を舞台にした物語から抜け出た、トロピカル神話ワールド!

確かに読んでいて、すこーんと抜けたような大きな空と 広い原色に溢れた土地が目に浮かんだ。
けれど独特な恒川ワールドは薄れてはいない。

現実と異世界が交錯する物語、そして怖さの中になんとも物悲しく懐かしい感じを描くのが著者の魅力だが、今回は怖い話だけでなくおとぎばなしのような話、推理小説のような要素もあったりと、今までの作品を気に入って読んできた読者にとっても、うれしい驚きが多いのではないだろうか。

120年生きているという呪術師の少女ユナ、紫の目を持つトイトイ様、土から生えている海賊、マンゴー頭の女...。登場人物を挙げると、? となるだろうが、いざ読み始めると難なく向こうの世界にすうっと連れてかれて、もっとずっと読んでいたい、と読書の幸せに浸っていた。

# by bookswandervogel | 2010-04-11 01:00
2010年 04月 09日

「女たちは二度遊ぶ」

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いったいなにが言いたいのだろう?掴みどころはどこなんだ?と思いながらもページを繰る手は止まらず、いつの間にか読まされてしまう。

『〜の女』とあたかもなんかすごいキャラクターを持った濃い女がそれぞれ出て来そうなタイトルが付けられているが、どの彼女もいつしか出会ったことさえ忘れそうな、けれど確かに自分の人生に何らかの形で関わった、そんな11人の女たち。

輪郭さえもぼんやりするような女たちとのたわいもない思い出...誰にも経験があるように、普段は完全に忘れていて、ふとした瞬間に脳裏を横切るような思い出を、吉田修一はそこだけしっかり切り取って輪郭をつくって魅せる。

「まるで出会わなかったような出会いだったからこそ、何年も経ってから
 とつぜん懐かしく思い出すこともあるのだ。」

# by bookswandervogel | 2010-04-09 23:26
2010年 04月 05日

「真綿荘の住人たち」

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島本理生は毎回かかさず読んでいる作家のひとり。
約一年ぶりの新作はいわくありげな大家さんがいる古い建物の下宿物語。

北海道から出てきた大和くん、物書きの椿さん、大きな身体の鯨ちゃん、大家さんの綿貫さん 綿貫さんの内縁の夫の晴雨さん。どの人をとっても一筋縄ではいかない人たち。自身の今まで書いた作品の要素を全部取り込んでみよう書いた作品だそうだが、内容を盛り込み過ぎていささか深みに欠ける気がした。

純粋で鈍感な大和くんが徐々に大人の世界に入っていく感じや、コンプレックスに悩み過ぎて愛されてることに気付かない鯨ちゃんの話はとても瑞々しくて共感好感が持てる。
あとは設定が複雑過ぎて入り込めない。
こちらの方が核の話なので、とくに何人も入り交じった下宿物語にせずに、これだけでじっくり書いたら良かったのになぁと少し残念。

# by bookswandervogel | 2010-04-05 23:58
2010年 03月 29日

「ハーモニー」

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舞台は21世紀後半。
大災禍と呼ばれる世界的な混乱を経て、人々は健康を第一とする価値観による社会、医療経済を核とした福祉厚生社会を作り上げた。
健康状態を主とする個人の信用に関わる様々な情報をパブリックに晒すことがモラルとされる生命社会。誰とも調和(ハーモニー)を保って生きるユートピア。
そんな中、公共物としての身体 リソース意識への抵抗として、自分達が無価値であることを証明するために3人の少女は餓死を選択する....。

2009年3月に34歳の若さで急逝した伊藤計劃。
病床で書き上げたというこの作品で、一作目の『虐殺器官』に続き"SFが読みたい!2009”の第一位、日本SF大賞を異例の死後受賞するなど、ドラマティックな背景に惹かれて読んだのは確か。

けれどそんな背景がなくともとても面白く、SFの分野に疎い私もたいへん惹き込まれた。
人が人として生きている意味は何なのか?「わたしがわたしである」尊厳はいったいどこにある?
人の命は「脳」にあるのか「心臓」にあるのかという何年か前にあった論議を思い出した。

個人的には最後のエピソードは無いほうが余韻に浸れていいなぁと思った。
語られてない部分を想像して愉しみたい。

# by bookswandervogel | 2010-03-29 23:50